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此処はホテル・アグスタから少し離れた森の中、其処で一人の不死者が消滅した。 名はカシェル、かつて管理局陸士部隊に所属していた局員でありスバルとティアナの同期でもある。 その同期を討ったのはヴィータ、スバル達が所属しているスターズ部隊の副隊長である。 今現場は静まり返っていた、カシェルは討つ事でしか助ける方法が無かった。 しかし…だからといって許される事では無い、スバルはきっと自分に対し憎しみに満ちた瞳で睨んでいるだろう… ヴィータはそう思いつつもスバルの身を案じ様子を伺おうとスバルに目を向けた。 …スバルは一点を見据え茫然自失と化していた、そんなスバルに対し肩に優しく手を当てているティアナの姿もあった。 二人の様子を見たヴィータは目をそらすとグラーフアイゼンを堅く握りしめ苦い顔を醸し出す、すると其処にザフィーラが姿を現した。 ザフィーラは先程までエリオ達の護衛を行っていた。 すると其処にエリオ達のもとへ向かっていたシャマルが現れ、シャマルは早速二人の治療を開始、 それを見届けたザフィーラはこの場をシャマルに任せ、自分はヴィータとともにレザードのもとへ向かおうと此処へ来たと話す。 その話を聞いたヴィータは一つ頷くと、ティアナにスバルの事を任せ二人はアグスタへと向かったのであった。 リリカルプロファイル 第十六話 狂騒劇 此処はホテル・アグスタの上空、レザードのモニターには各隊員達がレザードのもとへ向かっている姿が映し出されていた。 「やはり…あの程度の不死者では足止めにはならないか……」 予め予測は出来ていた、元々あの不死者は足止めに使うのには力不足である、むしろ不死者の“存在”こそが足止めに重要であった。 だが…まさかあの様な“演出”が生まれるとは…レザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべていると、左前方からシグナムが姿を現した。 次に右前方からヴィータが、そして後方からいつの間にか回り込んでいたザフィーラが地上から浮かび上がるように現れ、 少し間を置いて、なのはとフェイトが前方正面より姿を現した。 なのはは依然として俯いたままで、その光景を見たレザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべるとモニターを閉じ話し始めた。 「フフッ…どうでしたか?私の考えた“劇”は……」 「“劇”ですって!?」 フェイトの言葉にレザードは「えぇ」と一言口にし頷くと“劇”の説明を始める。 本来であればもっと強力な不死者による足止めを行うことが出来たのだが、それでは面白く無いと考えた。 其処でレザードは最近造った不死者の中に管理局員を材料にした不死者がいた事を思い出し、それを使った足止めを考案したと語る。 何故彼等を起用したかと言うと、一度不死者化した人間は二度と戻ることは出来ない、そして救う為にはその者を消滅させなければならない。 それはつまり不死者化した管理局員を、同じ管理局員の手によって殺す事を指し示す。 そうなればその時に醸し出されるであろう悲痛な表情も見られる為、彼等を起用し足止めを“劇”と称したと語った。 「結末は知っての通り……とても素晴らしい“劇”となったでしょう?」 そう言うと眼鏡に手を当て笑みを浮かべるレザード、その言葉にフェイトは一歩前に出ようとするが、なのはに肩を掴まれ止められる。 するとなのはは今まで俯いていた顔を上げると、その瞳には悲しみの色が滲んでいた。 そして今まで沈黙を守っていたなのはの口が開き、静かに囁くようにレザードに問いかけた。 「アナタは……」 「ん?」 「アナタはこんな“劇”を私達に見せる為に、彼らにあんな惨い事をしたの?」 「そうだ」 「私達の悲痛な表情が見れる…それだけの為に何人もの一般人や管理局員を犠牲にしたというの?」 「その通りだ」 「くっ!アナタって人は!!」 なのはの問いかけに笑みを浮かべ即答するレザード、その態度にフェイトが一言悪態をつく。 フェイトは産まれが“特殊”な為、人一倍命に対し強い想いを持っている。 それ故に命を冒涜するレザードの言動や行動に対し怒り心頭の想いであった。 だがレザードはフェイトの悪態をさらりと受け流すと更に話を続ける。 「もっとも…今回の“劇”は演者の“アドリブ”があってこその完成度とも言えますがね……」 その言葉に周りが疑問を感じていると、レザードは話の説明を始める。 本来の“劇”の内容とは不死者化した“ただ”の管理局員と六課の対決であったのだが、 材料にした管理局員の中に六課と関わりがある人物が存在していたというのは、レザードにとっても予想外の出来事であったと。 つまり今回の“劇”はレザードが考えたシナリオとは異なる内容、つまりは“アドリブ”が含まれていたと語る。 「まぁ、良い“劇”というのは“アドリブ”が栄えてこそ…とも言えますがね」 そう言うと高笑いを上げるレザード、するとなのはは目を瞑り大きく息を吐く。 そして目を開くと、そこにはいつも笑顔が絶えないなのはの顔からは想像も出来ない、怒りの表情を現していた。 そしてその瞳には静かに…だが激しい怒りを宿しレザードを睨みつけこう告げた。 「レザード・ヴァレス…アナタを逮捕します!!」 その言葉とともになのははデバイスをレザードに向け構えると、次々と構えるメンバー達。 するとレザードの腰につけたナイフが輝き出し魔導書へと変化すると左手に収まる。 そして辺りを見渡すと、こう述べた。 「やはりこうなりましたか…まぁ予測していた事ですし、第一幕を開始しましょう……」 そう言って眼鏡に手を当て対峙するレザード、その中まず最初に動いたのはシグナム。 シグナムは一気に間合いを詰めるとカートリッジを一つ消費し紫電一閃を放つが、 右手に五亡星を中心とした円陣で構成されたシールド型ガードレインフォースを展開され一撃を防がれる。 「どうしました?まさかこの程度ではないでしょう」 「なにを!!」 レザードに挑発され更に力を込めるも、一向に砕ける様子のないシールド、むしろシールドを介してレザードは魔力による衝撃波を撃ち出すとシグナムは吹き飛ばされた。 そしてレザードはシールドを解除するとクールダンセルを唱え、レザードの前には精霊を模した氷の人形が現れる。 氷の人形の手には氷の刃が握られておりシグナムに切りかかるが、 未だ刀身が燃え続けているレヴァンティンによって切り払われた。 一方レザードの後方ではフェイトが見上げる形で位置に付くとハーケンセイバーを撃ち出す。 ハーケンセイバーは弧を描きながら標的であるレザードに向かっていった。 だがレザードはリフレクトソーサリーを展開させ、ハーケンセイバーをフェイトに向け跳ね返した。 「そんなっ!何故!」 「甘いですね、私が使えないとでも?」 そう言って目だけを向け見下ろす形で応えるレザード、その表情に苛つくもフェイトは跳ね返されたハーケンセイバーを迎撃した。 その間にレザードの頭上で待機していたヴィータがラテーケンハンマーの推進力を利用した振り下ろしが襲いかかる、だがそれすらもシールドで防がれてしまった。 「野郎!砕けやがれ!!」 「その割には一歩も動いていませんね」 レザードはヴィータを挑発するとヴィータは歯を噛み絞めカートリッジを消費する。 それを見たレザードは足元に五亡星を描くとその場から消え去る。 場にはヴィータの一撃が虚しく空を切る音が響いた。 「転送魔法だと!?野郎!何処に!!」 「……っ!ヴィータ!上だ!!」 シグナムの呼びかけにヴィータは上を見上げるとレザードが右手をかざしている姿があった。 レザードはファイアランスを唱えると二つの炎がヴィータに向かって襲いかかる。 だが、ヴィータの前にザフィーラが立ちふさがると障壁を展開させ、ファイアランスを弾いた。 「ほう……ならばこれはどうでしょう?イグニートジャベリン」 そう唱えるとレザードの周りに光の槍が五つ姿を現れ、一本ずつ撃ち出した。 まずは一本目、イグニートジャベリンは容易くザフィーラの障壁に突き刺さると亀裂が生じた。 続いて二本目、これも同様に突き刺さり亀裂が生じると先程の亀裂と繋がり障壁全体的に走る。 このままではマズいとザフィーラが考えていると、なのはから念話が届きヴィータと目を合わせ頷く。 そして三本目を撃ち出すとザフィーラの障壁を容易く打ち砕いた。 だが障壁が砕けた瞬間、ヴィータとザフィーラは左右に展開し中央からなのはのディバインバスターがレザードに向かって延びていった。 レザードは残りのイグニートジャベリンを撃ち出すがディバインバスターの勢いにより弾かれてしまう。 すると今度はシールドを展開させ、ディバインバスターを受け止めたのであった。 「なのはのディバインバスターを受け止めやがった!?」 「やるな…あの男」 ヴィータは驚きザフィーラはレザードの実力を認める中、なのはは今までの戦況を見るやロングアーチと連絡を取った。 「どないした?なのは」 「はやてちゃんお願い!能力リミッターの解除を承認して!!」 「なんやて!?」 なのはの言葉に思わず椅子から飛び上がるはやて。 なのはの見立てではレザードはSランクの実力者、リミッターがかかっている自分達では歯が立たないと語る。 しかしはやては顎に手を当て考え込んでいた、そんなはやての態度になのははダメ押しとも言える言葉を放つ。 「今!この場でアイツを捕まえなきゃもっと被害者が増える!私や…スバルみたいな思いを受ける人が大勢出てくる!! それだけは……なんとしても防がなくっちゃ!!!」 なのはが放ったその言葉は、はやての心に深く響き頷くと意を決した。 「わかった、せやけど120分や、それ以上はアカン!えぇな」 「はやてちゃん!……120分もあれば十分だよ!!」 そう言って連絡を切るなのは、はやては椅子に座るなり一つ溜め息を吐くと机に肘を置き手を組むと考え込んでいた。 これは危険な賭である、何故ならこの先起きるであろう“未曾有の災厄”の事を考えれば、今此処で切り札である能力リミッターを解除するのは得策ではない。 だがその“未曾有の災厄”がレザードの手によって行われるものだとしたら、此処で逮捕する事によって未然に防ぐ事が出来るのかもしれない。 しかし的が外れれば切り札の無駄使い、更に此方の戦力を把握される可能性がある。 そんなハイリスクを背負ってでも、なのはの要望に答えたのは、はやてもまたなのはと同じ思いを感じていたからだ。 それにリミッターを解除したなのは達に適う者などいない……例え相手がSランクの実力者であっても… そう言い聞かせるかの如く自分の判断を信じ、はやてはモニターを見つめていた。 「みんな!はやてちゃんからリミッター解除の承認が下りたよ!!」 なのはのその一言に頷くと一斉にリミッターを解除するメンバー達。 リミッターの外れたリンカーコアは活性化し、魔力を作成していく。 そして体内は本来の魔力数値で満たされると一斉にレザードを睨むメンバーであった。 「成る程……今まではリミッターが掛かっていたのですか…ならばその本来の実力を見せて―――」 「随分と良く喋る男だ」 レザードの後方から声が響きレザードは振り向くと、其処にはシグナムがいつの間にか回り込んでおり、紫電一閃を放つ寸前であった。 レザードはとっさにシールドを展開するが、先程とは異なり呆気なく切り崩された。 シールドを崩されたレザードは後方へ飛びながらアイシクルエッジをシグナムの正面に向け撃ち出す、だがアイシクルエッジは次々と撃ち落とされていった。 その間にヴィータはレザードを見下ろす位置に立つと、自分の目の前に鉄球を8つ並べ次々と魔力が覆っていく。 そして魔力に覆われた鉄球は次々とグラーフアイゼンで撃ち抜いた、シュワルベフリーゲンと呼ばれる誘導弾である。 シュワルベフリーゲンがレザードに迫る中、ヴィータの攻撃を跳ね返そうとリフレクトソーサリーを展開させ攻撃を受け止める。 「くっ!重い!」 だがシュワルベフリーゲンは一つ一つが重く威力が高い為、的確にヴィータへ跳ね返す事が出来なかった。 レザードは仕方なくシュワルベフリーゲンを周囲に跳ね返している最中、上空からヴィータがラテーケンハンマーを振り下ろす。 レザードは先程と同様シールドを展開させるが、先程とは異なり容易く打ち砕かれた。 「まだまだぁ!!」 すると今度は先程の一撃の勢いを利用してその場でカートリッジを消費させるとヴィータは回転し、ラテーケンハンマーを連続で撃ち出そうとする。 だがレザードはヴィータが回転している隙をついて移送方陣でヴィータの後方上空へと移送した。 移送後レザードはヴィータに向けファイアランスを撃ち出すが、 ヴィータは回転を止め左手をかざすと三角形の盾パンツァーシルトを展開させて攻撃を防いだ。 「ザフィーラ!!」 「承知!!」 ヴィータの掛け声に呼応する様にザフィーラはレザードに迫っていく。 するとレザードはザフィーラに向けイグニートジャベリンを撃ち出す。 だがザフィーラは左手に障壁を展開させると先程とは異なりイグニートジャベリンを弾き飛ばしながらレザードの目の前まで向かう。 そして右手に魔力を乗せ突き抜けるように振り抜くが、レザードは半球体型のバリア型ガードレインフォースを展開させ攻撃を防いだ。 しかしザフィーラは気にも止めずバリアの上から何度も左右の拳を叩き付ける。 その衝撃はレザードにも伝わっており、更にバリアにヒビが生じ始めると、それを見たザフィーラは勝機とばかりに右手で左拳を包み込むように握り絞め振り上げた。 「小賢しい…」 レザードは一言呟くと振り下ろしに合わせてバックステップで回避、更に右手をザフィーラにかざした。 その瞬間ザフィーラの口の端がつり上がると、レザードは手足だけではなくで体中をバインドで縛られた。 「んっ!?これは…」 「掛かったな」 先程のザフィーラの攻撃は囮で本命はこのバインドによる拘束が目的であった。 まんまと掛かったレザードであったが、バインドを外そうと魔力を高める。 その間に目の前にいたザフィーラが退散すると、上空に光を感じレザードは目を向けた。 レザードから見て左側上空にエクシードを起動させたなのはと、右側上空でザンバーフォームを構えるフェイトの姿があった。 二人はカートリッジを二発消費すると、レイジングハートの前に流星のように魔力が収束し、バルティッシュの刀身には強烈な雷が蓄積していった。 そして――― 「スターライト……」 「プラズマザンバー……」 『ブレイカァァァー!!』 二人が声を上げた瞬間、魔力砲は解き放たれ桜色の魔力砲と金色の魔力砲は真っ直ぐレザードに向かい直撃した。 だが二人の攻撃はまだ終わってはいなかった。 二人は間を徐々に詰めて行き二人の背中が重なり合うほどまで詰め寄ると、デバイスを重ねこう叫んだ。 『ダブルブレイカァァァー!!』 次の瞬間、デバイスから撃ち出されていた魔力砲が混ざり合い、螺旋を描きながらレザードが縛られた場所を飲み込みそのまま大地に突き刺さる。 そして螺旋を描いた魔力砲が消えると、キノコ雲のような土煙を高々と立ち上らせたのであった。 その様子を二人は上空で見つめており、その二人を囲むようにシグナム、ヴィータ、ザフィーラが集まっていた。 「………凄い…これがリミッターを外したフェイトさん達の実力……」 一方地上ではスバル達と合流したエリオ達が隊長達の戦いを見守っていた。 そしてシャマルは先程はティアナの、今はスバルの疲労を回復させていた。 スバルは依然として呆然自失としており、みんなの呼びかけにすら反応しなかった。 ティアナはシャマルに事情を説明すると、シャマルはスバルを見つめ落ち込む表情を見せる。 すると今度は顔を背け苦い顔を醸し出していた。 シャマルは自分の無力さを噛み絞めていた、生まれて幾年月、風の癒し手と称され様々な怪我に携わってきた。 だが心の傷を癒やす事は出来ない、つまりスバルの痛みを癒せないのだ。 それでもせめてスバルの疲れた体を癒やす位はしようと静かなる癒しをかけていたのだ。 一方ティアナはシャマルにスバルの身を任せエリオ達と共に隊長達の戦いを見守っていた。 エリオは一言漏し目を輝かせて見守っており、キャロもまたフリードリヒを抱きかかえながら見守っていた。 二人の心には安堵感に満ち溢れていたが、その中でティアナは一人冷静に戦況を見据えていた。 おかしい、何かがおかしい…確かにリミッターを外した隊長達の力は凄まじくティアナの想像を超えていた。 加えてフェイトはザンバーフォームを起動させ、なのはに至っては短期決戦用のエクシードを使用している。 まさに“無敵を通り越して異常”な戦力、その異常な戦力を“たった一人”の魔導師に向けられている。 …寧ろ今の状況こそ異常では無いのかと考えるティアナ。 幾らあのレザードが強者であってもSランクオーバーもしくはそれに準する魔導師五人で相手にする程なのだろうか? もしそうならレザードはあの異常な戦力と対等の力を持っていることを指す。 そんな馬鹿げた事を考えつつも、なのはの姿を見上げる。 なのははあれ程の収束砲にコンビネーション攻撃を仕掛けたにも関わらず、なのはの瞳には未だ警戒の色が滲んでいた。 だとすれば、なのははレザードを倒したという確固たる手応えを感じてはいないのではないか? そんな有り得ない事を考えるも、背中に冷たいモノを感じるティアナであった。 一方舞上げられた土煙の中、その中央の場でレザードは大の字を描いて寝そべっていた。 レザードは上半身だけを起こすと手の感覚を調べる、次に自分の服装を調べた。 服は舞上げられた土煙のせいで砂を被っており、レザードは眼鏡に手を当て頭を横に振る。 「やれやれ…一張羅が台無しだ……」 そう答えるや空を見上げるレザード、空は未だ舞い上がった土煙に覆われており、太陽も朧気になっていた。 そこでレザードはモニターを開きルーテシアと連絡を取る。 「どうしたの博士?」 「ルーテシア、ガリューの方はどうなっていますか?」 「……………………」 その言葉に沈黙するルーテシア、レザードは首を傾げると意を決したように話し始めた。 ガリューは無事アグスタへの潜入に成功しスカリエッティの依頼品を無事に回収、 続いてレザードの依頼品を回収に向かったところ、一つは回収したのだが もう一つはある“ハプニング”により目下捜索中で暫く時間が掛かると告げた。 それを聞いたレザードは呆れるように頭に手を当て振る。 「仕方がありませんね、ではもう少し時間を稼ぎましょう……」 「大丈夫博士?ゼストを向かわせようか?」 「いえ…それには及びませんよ」 そう言うとルーテシアと別れの挨拶を交わすとレザードはモニターを消し、これからどうするか考えた。 彼女達の攻撃があの程度であれば、このままでも充分時間を稼ぐ事は出来る。 だがそうなると攻撃を全て受け止めなければならない、それにやられっぱなしというのも面白くない。 「やはり…リミッターを一つ解除するしかないですね」 考えを纏めたレザードはゆっくりと立ち上がり空を見上げていた。 一方上空では、なのはとフェイトを中心に舞い上がった土煙の様子を見つめていた。 だが未だ動きがない為かヴィータが業を煮やし問い掛ける。 「なぁシグナム、やったんじゃねぇか?」 「さぁ…どうだろうな、油断は出来ん」 「なのははどう思う?」 「……………………」 ヴィータの問い掛けに警戒を促すような答えを出すシグナムに、フェイトの呼び掛けに一切答えず土煙を見つめるなのは。 土煙も徐々に薄くなっていき地上が見え始めている中、地上にはレザードが膝あたりの砂を叩きつつなのは達を見上げていた。 その光景にやはり…といった様子でデバイスを構えるなのは、それを皮切りに他のメンバーも構え始める。 それを地上で見ていたレザードは眼鏡に手を当てこう言い放った。 「成る程…どうやら貴方達を侮っていたようですね…ならばこちらも……」 その言葉の後にレザードの足元から青白く光る五亡陣が現れると更に言い放った。 「ネクロノミコン、能力リミッター解除、モードII……グングニル!!」 するとレザードに掛けられていたリミッターが外れリンカーコアが活性化すると体はふわりと浮かび上がり体から青白い魔力が溢れ出す。 溢れ出した魔力は周りの木々を薙ぎ倒すと徐々に小さくなっていき右手に炎のような形で揺らめく。 レザードはその魔力をかき消すように振り払うと今度は左手に持っていた魔導書が輝きだした。 魔導書は柄の両端に巨大な両刃の刃が付いた槍へと変わりレザードの右手に収まった。 モードIIグングニル、かつてレザードが居た世界に存在する、 神の世界アスガルドを支える四宝の一つで、神の王オーディンが所有していた武器を模倣した形態である。 一方上空ではレザードの魔力に唖然としていた。 あれだけの魔力を保有していながら今までリミッターが掛かっていた事に。 おそらく今のレザードの魔力は自分達の想像を超えているであろう、だが此処で屈しる訳にはいかない。 そう隊長達は気を取り直しレザードを睨みつける。 そしてレザードは地上からなのは達を見上げこう述べた。 「では……最終幕を始めましょうか」 そしてなのは達に向けグングニルを振り払うと衝撃波を作り出し、衝撃波はなのは達に直撃した。 なのは達は叫び声を上げながら吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直し地上を睨みつける。 地上には既にレザードの姿はなく、なのは達はレザードを探していると更に上空にてレザードを発見する。 「野郎!いつの間に!」 「待て、私が行こう!」 ヴィータが飛び出そうとする中、シグナムに止められシグナムはレヴァンティンを構えた。 「レヴァンティン!カートリッジロード!!」 レヴァンティンからカートリッジが二発排出されると、刀身に紅蓮の炎が纏いレザードとの間合いを詰め切りかかる。 だがシグナムの紫電一閃はレザードのシールドに阻まれてしまう。 「ほぅ……そのデバイスの名はレヴァンティンと言うのですか…成る程…貴様の能力によって炎の魔剣を体現させている訳か」 「貴様!何を言っている!!」 「だが…我がグングニルと同様、オリジナルとは程遠い!!」 レザードは意味深な台詞を吐くとグングニルをシグナムに向け切り払う。 それによって発生した衝撃波がシグナムに直撃し吹き飛ばされた。 それを見たヴィータはレザードとの間合いを詰める。 ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムに変えるとカートリッジを二発消費させレザードに打ち込む。 ギガントハンマーと呼ばれるヴィータのフルドライブから繰り出される一撃である。 だがレザードはヴィータのギガントハンマーをグングニルで防いだ。 「バカな!アタシのギガントハンマーをデバイスで受け止めやがった!!」 「材質が違うのですよ」 そう言うとレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせるとヴィータにかざした。 「ダークセイヴァー」 次の瞬間、ヴィータの右下・左下・上後方に闇の刃が現れ、それぞれ右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫く。 更に右上・左上・下後方に先程と同様の闇の刃が現れると、右肩・左肩・腰のあたりを貫き、 またもや右下・左下・上後方に先程と同様の闇の刃が現れると同じく右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫いた。 「ヴィータちゃん!!」 「安心しなさい…非殺傷設定されていますから死にはしませんよ…痛みは伴いますが」 そう言うとヴィータを貫いた闇の刃が消え力なく落ちるヴィータ。 その間にザフィーラが正面から襲いかかる。 「おのれ!よくもヴィータを!!」 「次は貴方ですか……先程貴方には一杯食わされましたね」 そう言って手をかざすとザフィーラの手足に赤いバインドに、胴には青いバインドによって縛られた。 「くっ!これは!!」 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。 「エクセリオン……バスター!!」 「フッ……プリベントソーサリー」 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう? それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――) 「…バーンストーム」 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか! ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。 「カハァ!!」 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」 「ッ!!!キッキサマ!!」 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。 「確か……名は」 「フェイトちゃ――」 「ディバインバスターでしたか」 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。 「何で!アナタがディバインバスターを!」 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。 その中レザードにルーテシアから念話が届く。 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…) (わかった…やりすぎないでね) ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」 「それはどういう意味!」 「こう言う事ですよ」 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。 するとレザードの声だけが響いてきた。 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。 「我ながら中々の威力ですね」 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。 「私の……私の判断ミスや!!」 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。 「博士…それ何なの?」 「これですか?」 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」 前へ 目次へ 次へ
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Burning Dark(後編) ◆9L.gxDzakI ぎん、と。 鳴り響く剣戟の音はさすがに重い。 驚嘆に値する相手だと、改めてアンジール・ヒューレーは思考する。 バスターソードと互角に打ち合える重量を、軽々と振り回すその筋力。 荒々しくも素早い攻撃は、さながら棒切れでも振り回しているかのようだ。 自分も今の腕力を手に入れるだけに、どれだけの鍛練を重ねたことか。 おまけにこれまでに見たこともない、異常なまでの再生能力も備えている。 断言しよう。こいつは強い。 自分達ソルジャーのクラス1stと、ほぼ同等のポテンシャルを有している。 それでも、倒せない相手ではないはずだ。故に剣を振るい続ける。 いかに優れた再生能力を持とうと、完全な不死などということはありえない。 仮にそんなものが呼ばれていたとすれば、その時点で殺し合いのゲームバランスは崩壊する。 もしも奴が本当に不死であるならば、デスゲームの結果は論ずるまでもない。 どう考えても、耐久力の差でアンデルセンが優勝する。 それ以外の可能性はありえない。それはプレシアの望むところではあるまい。 つまり、アンデルセンは無敵ではない。 であれば、倒せる。 ばさ、と。 背後の片翼を羽ばたかせた。 戦闘において、飛行能力とは重要なアドバンテージとなる。 相手が飛べない相手ならば、跳躍の限界以上の高度まで飛べば、それだけで攻撃をシャットアウトできる。 そうでなくとも、相手以上に多様な角度から、攻撃を仕掛けることも可能だ。 敵の頭上を一飛び。一瞬にして、背後を取る。 舌打ちと共に振り返るアンデルセン。 さすがに速い。だが、隙は一瞬でもできれば十分。 「はぁっ!」 気合と共に、一閃。 振り向くその刹那に、一撃。 バスターソードの太刀筋が、アンデルセンの胸部に引くのは真紅のライン。 肉が断たれた。鮮血が弾け飛んだ。 この剣はソルジャーに入隊した記念に、郷の両親が譲ってくれた大切な家宝だ。 使うと擦り減る。勿体ない。 故に本当の危機に迫られた時以外は、敵に刃を立てることなく、全て峰打ちで潜り抜けてきた。 だが、今回は相手が相手だ。再生能力を有した敵は、斬りつけなければ倒せない。 「この程度か! 俺の能力(リジェネレイト)を見ていながら、この程度の傷をつけて満足する気か!?」 「ブリザガ!」 そして今回は、これだけではない。 ただ斬撃を繰り返しただけでも、そうそう勝てる相手ではない。 故に、戦い方を変える。 突き出した左手。足元に浮かぶのはISのテンプレート。 マテリアルパワー、発動。使用するのは氷結の力。 迸る冷気が弾丸をなし、アンデルセンの傷口へと殺到。 命中する。凍結する。斬り開かれ、修復のために蠢く筋肉が、停止。 自慢の再生は中断される。 「ぬおっ……」 「いかに再生能力を持っているといえど、凍らせて復元を止めれば……」 「嘗めるなよ剣闘士(ソードマスター)! この程度の拘束で、俺をどうこうできると思ったか!」 ぴしっ、と。 ガラスのごとき氷晶に入る、亀裂。 そこはイスカリオテの最強戦力、アレクサンド・アンデルセン。 込められた気合が。発揮される気迫が。 氷の枷へと網のごとく、鋭いひびを広がらせ、遂には粉々に砕かせる。 当然の帰結だ。 そもそも最初の遭遇で、アンデルセンは同じブリザガの凍結を破ってみせた。 であれば、部分的な冷凍など、はねのけられないわけがない。 だが。 「――氷を砕くために、その足を止める!」 それが狙いだ。 突撃。すれ違いざまに、また一閃。 氷の砕けたその矢先、今度は脇腹を襲う痛烈な斬撃。 当然、回避などできない。もろに食らった一撃が、深々とアンデルセンの懐を抉った。 治り始めたところを、また即座に氷結。 「俺がその隙を許すと思ったか」 再度標的へと向き直り、アンジールが告げる。 これが彼の狙いだ。 いかに氷を砕けると言えど、そのためには一瞬の間隔を置く必要がある。 これが並の人間同士の戦いならば、何ということもない刹那の隙だ。 だが、ここにいるのは常人ではない。 アンデルセンは熟練の達人であり、アンジールもまた同じく達人。 互いに圧倒的な実力を誇る、彼らの戦いであればこそ、その一瞬こそが命取り。 回復の隙など与えない。傷口を残らず凍結させながら、極限まで追いつめて始末する。 これがアンジール・ヒューレーなりの、再生能力との戦い方。 無論、だからといって楽に勝てるわけではない。 普段に比べて、ISの燃費が悪くなっている。エネルギーの消耗が平時よりも早い。 自身のスタミナが尽きるのが早いか、アンデルセンが倒れるのが早いか。これは極限の我慢比べ。 ばさ、と羽ばたく。 怒濤の三撃目を叩き込まんと。 「チィッ!」 されど、回避。 まさしく紙一重。 その身を強引によじったアンデルセンが、肉薄するバスターソードをかわす。 お返しと言わんばかりに迫る、グラーフアイゼンの反撃。 鉄槌をかわす。剣で受け止め素早くいなす。今度は袈裟掛けに斬りかかる。 これも回避。 振り下ろしたところを、鉄の伯爵の一撃。 大剣の防御。勢いを殺しきれず、滑るように後退。 (防御を捨ててきたか!) さすがにそう簡単にはいかないようだ。 この男、狂人であっても馬鹿ではない。崩し方の割れた再生能力に頼らず、回避行動に専念し始めている。 素早い変わり身だ。防御一辺倒と思っていた男が、ここにきて素早いフットワークを発揮した。 「Amen!」 そうこう考えているうちに、次なる一撃が叩き込まれる。 これまた剣で受け止め、弾き返し、ステップで右側へと回り反撃。 ぎん、と。 弾かれたばかりのグラーフアイゼンが、素早くバスターソードを受け止めた。 やはり手ごわい。 再生能力を抜きにしても、こいつの実力は相当に高い。 少しでも気を抜こうものなら、逆に向こうがその隙を突いてくる。 鉄槌の重圧を振り払い、後退。一旦両者の間に距離を取った。 間違いない。 これまでの戦いと現在の戦いが、アンジールに確信を抱かせる。 このアンデルセンという男、死力を尽くしてぶつからなければ、到底倒せる相手ではない。 そしてこの勝負、負けるわけにはいかないのだ。 ディエチを喪い、今度はチンクの命までもが散ろうとしている。 そんなことは許せない。今度こそ、自分のこの剣で守ってみせる。 びゅん、と。 純白の翼が疾風と化す。 眼前で待ち構えるアンデルセンへと、一直線に殺到する。 振り上がる刃。同時に構えられる相手の鉄槌。 そこからの衝突は、まさに壮絶の一言に尽きた。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」 「カアアアアアァァァァァァァァ―――ッ!!」 一度斬りかかれば反撃も一度。 二度打ちかかってくれば反撃も二度。 十度の攻撃は十度の反撃。 百度の猛攻は百度の反撃。 目にもとまらぬ素早さで、繰り出されるバスターソードとグラーフアイゼン。 さながら横殴りの大豪雨。否、これはもはや押し寄せる波濤。 激流と激流同士がぶつかり合い、やかましい金属音と共にせめぎ合う。 アンジールの一撃が敵を掠めれば、アンデルセンの一撃が我が身を掠める。 一歩も押せず、一歩も引かず。 両者の攻め手は完全に拮抗し、怒号と共に激突し合う。 パワー・スピード・テクニック。そのいずれかでも相手より劣れば、即座にほころびとなるだろう。 しかし、均衡は崩れなかった。 どちらもが死力を尽くし合った結果、そこに優劣は存在しなくなった。 「いいぞアンジールゥ! それでこそ倒し甲斐がある! 殺し甲斐がある! 絶滅させる甲斐があるゥゥゥッ!!」 「知ったことか! お前が俺の家族を奪おうというのなら……倒すまでだッ!!」 ただありのままに、互いの一撃一撃を。 憎むべき敵の懐目がけ、一心不乱に叩き込むのみ。 そして―― 《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!》 剣戟の轟音すらかき消す絶叫は、この時響き渡っていた。 ◆ 今のは何だ。 ただ戦闘を傍観していたチンクは、割って入った音に周囲を見回す。 それはアンジール達も同じようだ。 互いにつばぜり合いの態勢で静止したまま、意識のみで音源を探っていた。 アンデルセンと戦っていたと思えば、そこへあのアンジールという、訳の分からない男の乱入。 大剣を構えるあの男は、自分に味方してくれた。 であればこいつは一体何だ。またしても現れた第二の乱入者は、味方なのか敵なのか。 轟、と。 地鳴りのような音が響く。 いいや、地面は揺れていない。であればこれはまた別の音だ。 揺れているのは大地ではない。これは大気を揺らす音。 陽炎を起こす炎の音だ。 そしてその音源は――――――北から来る! 「いかん……チンク、逃げろッ!」 アンジールの声。同時に白き翼が羽ばたく。 一瞬遅れ、大通りに沿って現れたのは。 「なっ……!」 鬼だ。 まさしく炎の鬼の姿。 屈強な筋肉を巨体に身につけ、灼熱の業火を撒き散らす鬼神が、猛烈な加速と共に突っ込んでくる。 凄まじい熱量に歪む空気を、その突撃で吹き飛ばしながら。 溢れんばかりの真紅の炎で、その道筋を焼き尽くしながら。 理性で判断している余裕などない。 一瞬前に目撃した鬼は、今や倍のサイズに見えるほどに接近している。 かわせるか。いいや、かわすしかない。 あんなものを食らってはひとたまりもない。 かっ、と。 地面を叩き、バックステップ。 思い出したように、ハードシェルの準備を整える。 だが。 その時には既に遅かった。 一瞬の反応が遅れた結果、防壁が完全に展開するよりも早く。 「う……うわああぁぁぁぁぁーッ!!」 炎がその身に襲いかかった。 ◆ 単刀直入に言おう。 この時、チンクら3人へと襲いかかったのは、地獄の業火を操る灼熱の召喚獣――イフリートである。 その力は、数多いる召喚獣の中でも比較的低い。 クラス1stであるアンジールや、それと同等の実力を誇るアンデルセンなら、恐らく倒せていただろう。 事実として、最強のソルジャー・セフィロスは、かつてこれを一撃で撃破している。 だが、それは敵の攻撃をかいくぐり、こちらの攻撃のみを命中させた場合の話だ。 召喚獣の破壊力は絶大。 骨すら溶かす紅蓮の炎は、食らえば人間などひとたまりもない。 まして、制限によって弱体化されている今の彼らに、生き延びられる保障はない。 そしてその暴力的な力を前に、3人はいかなるアクションを取ったか。 まず、イフリートが使われている世界から来た、アンジール・ヒューレー。 雄たけびでその正体を察知した彼は、誰よりもいち早く離脱することができた。 続いて、イフリートを目撃した瞬間に、ようやく回避行動を起こしたチンク。 たとえ未知の存在であるといえど、似たような魔法生命体の存在は、一応頭に入っている。 間に合わずかの召喚獣の纏う炎を受けたものの、体当たりの直撃だけは避けられた。 真っ向から突撃を食らうことがなかっただけでも、まだましな方であったと言えるだろう。 そして、アレクサンド・アンデルセン。 いかに化物退治を生業とする彼でも、このような巨大生物は過去に見たことがなかった。 彼が屠ってきたのはヴァンパイアやグール。全て人間大の範疇に収まるもの。 故に、こんな冗談のような存在は、これまで目の当たりにしたことがない。 そのためその巨体を前に、一瞬とはいえ魅入られたアンデルセンは―― ――唯一、その直撃をまともに食らってしまった。 ◆ 凄まじい圧力を身体に感じている。 凄まじい熱量が身体を舐めている。 抗う術は既にない。真正面から体当たりを食らった瞬間、グラーフアイゼンは右手から弾け飛んだ。 くわと見開かれたアンデルセンの視線と、イフリートの視線が重なっている。 そうだ。これこそが真の化物だ。 人間の理解を容易に跳ね除ける、このような存在だからこそ、化物(フリーク)の名に相応しい。 掛け値なしの化物共に比べれば、自分など所詮健全な一般人だ。 だが同時に、自分はその化物を駆るべき人間でもある。 殺し屋。銃剣(バヨネット)。首斬判事。天使の塵(エンゼルダスト)。 語り継がれる数多の異名は、この身に培った力の証。 偉大なる神の御心の下、その威光に刃向かう百鬼夜行を、血肉の欠片も残らずぶった斬ること。 それこそが己の仕事であり、己の存在意義でもある。 それがどうした。 そのアレクサンド・アンデルセンが、こんな形で倒れるのか。 絶滅させるべき存在である化物に、逆にくびり殺されて終わるのか。 既に身体は動かない。 アンジールによって刻まれた傷痕から、炎が体内までも侵略している。 再生が追いつくはずがない。身体を動かす余裕などない。 情けない。 何だこの体たらくは。 法王の下へと帰還することすら叶わず、こんなところで朽ち果てるのか。 このまま地獄の炎に焼かれ、消し炭となって路傍に打ち捨てられるのか。 アンジールやチンクを放置したまま。 あの男との決着もつけられぬまま。 ――アーカードを殺せぬまま。 「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォ――――――――……………ッッッ!!!!!」 【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING 死亡】 【残り人数:42人】 ※G-6の南北に走る大通りと、その南側の延長線上の建物が、イフリートの「地獄の業火」を受けました。 道路は焼け焦げ、建物は崩壊しています。 ※H-6の川に、アンデルセンの焼死体と、焼け焦げたデイパックが浮いています。 アレクサンド・アンデルセンは死んだ。 道路に転がったグラーフアイゼンと、最期の絶叫がその事実を物語っている。 それは受け止めよう。もっとも、こんな形で決着がつくとは思わなかったが。 だが、今アンジールの青き視線は、全く別のものを捉えていた。 もはや彼の全神経は、それとは全く異なるものに向けられていた。 「……チンク……」 肩を震わせ、呟く。 視線の先に落ちていたのは、黒い眼帯とうさぎの耳。 何故かバニーガールの服装をしていた、あの小さな妹の身に付けていたものだ。 姉妹の中で最も幼い姿をしながら、12人中5番目に生まれていた娘。 小さな身体とは裏腹に、常に下の妹達の面倒を見ていたお姉さん。 いつしかそこに加わっていたアンジールのことも、仲間の一員として受け止めてくれていた。 ウーノがケーキを買ってきたときにも、自分の代わりに剣の手入れを引き受けるとまで言ってくれた。 「俺はまた……守れなかったのか……」 彼女の眼帯のその先には――同じく黒に染まった、短い右腕が落ちていた。 肘から下の部分であるそれは、完全に炭化してしまっている。 間に合わなかった。 イフリートの突撃を回避できず、その身を炎に焼かれてしまった。 その右腕だけを残して。それ以外の部分は、影も形も残らぬほどに。 地獄の責め苦の苦痛の中で、死体すら残さず燃え尽きてしまったのだ。 自分のせいだ。 自分の力不足が彼女を殺した。 あの時回避をチンクに任せなければ。 距離が離れていようとも、届いて助け出せるだけの速さがあれば。 2人目の家族を、死なせずに済んだのだ。 「……くそ……ッ!」 後悔が。絶望が。 男の顔を、歪ませる。 【1日目 午前】 【現在地 G-6 大通り】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】健康、疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみ 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※G-6の大通りには、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 チンクの眼帯、バニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 全てを見ていた者がいた。 戦場から離れた道路の上で、一部始終を目撃していた者がいた。 黒と紫に彩られた、ゴシップロリータのドレスを纏うのは、未だ10歳にも満たぬ少女。 薄紫の髪を風に揺らし、真紅の瞳は手元を見つめる。 「……お疲れ様」 ぽつり、と呟いた。 視線の先にある、宝石のような球体へと。 マテリアだ。 魔晄エネルギーが結晶化し、固体と化した球状の物体。 人間はこのマテリアを介することで、その種類に応じた古代の魔法を、自在に発動することができるのである。 そして彼女の手の中にあるのは、その中でも召喚マテリアと呼ばれるもの。 対応する召喚獣の名は、イフリート。 そう。 彼女こそが、あの灼熱の魔神を呼び出した張本人。 スカリエッティに協力する召喚魔導師――ルーテシア・アルピーノである。 全てはほんの偶然だった。 元々は当初の予定通り、スカリエッティのアジトへと向かおうとしていた。 しかし、F-7エリアまで足を運んだ時、とある発想が頭に浮かんだ。 ――あの光と風に従ってみよう、と。 ユーノ・スクライアを刺した直前、襲いかかってきた衝撃波を思い出したのだ。 あれが砲撃魔法か何かの余波ならば、当時の状況から推察するに、G-5かG-6に向かって飛んで行ったことになる。 少なくとも、アジトのある北東ではなさそうだ。通り道であったはずの、G-7にその気配がなかった。 あれだけの破壊力の矛先だ。きっとその先には何かがある。 幸いにも、ここからもそう遠くない。 生体ポットの様子を見に行く前に、少し覗きに行っても罰は当たるまい。 そう思い、ひとまずはそちらへ向かうため、大通り沿いにF-6へと踏み込んだ。 そして南下しようとした時、その先に彼らを見つけたのだ。 切り結ぶ剣士と神父、そしてその手前に立つチンクの姿を。 ちょうどいい。 3人も人が集まっているのだ。ここらでイフリートの力を試してみよう。 起動テストも兼ねた実験だったが、どうやら上手くいったようだ。 見事召喚獣は顕現し、その絶大な破壊力を見せつけた。 体力の消耗がついてくるのが玉に瑕だったが、十分な威力と言っていいだろう。 しかし、1つだけ不満がある。 あれだけの猛威を振るっておきながら。 「殺せたのは1人だけ……か……」 【1日目 午前】 【現在地 F-6 大通り】 【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(小)、キャロへの嫉妬、1人しか殺せなかったのが残念 【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現! 【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、 エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン 【思考】 基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。 1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。 2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。 3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。 4.一応18時に地上本部へ行ってみる? 5.もしもレリック(刻印ナンバーⅩⅠ)を見つけたら確保する。 【備考】 ※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。 ※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。 ※ユーノが人間であると知りました。 ふらり、ふらり、と。 おぼつかない足取りが、前へと進む。 ぼろぼろに焼け焦げたシェルコートと、ちりちりとくすんだ銀髪を、力なく風に揺らしながら。 火傷を負った全身を、引きずるように歩きながら、少女が東へと進んでいく。 チンクは生きていた。 ハードシェルの展開こそ間に合わなかったものの、何とか一命を取り留めたのだ。 イフリートの炎に煽られた彼女は、G-7の西端へと吹っ飛ばされていた。 そしてその後は、危険な戦場を離れるために、こうして東へと逃れていたのである。 考えるべき事項はいくつかあった。 アンジールはともかくとして、あのアンデルセンはどうなったのか。 見知らぬISを発動していたアンジールは、一体何者だったのか。 何故自分の名前を知っていて、ああも馴れ馴れしく接してきたのか。 だが、そんなことを考える余裕など、チンクには一切残されていない。 それ以上に大きな念が、彼女の脳内を占めていたから。 ぼとり、と。 コートの裾からこぼれ落ちる、漆黒の塊。 それを気に留めることもなく、目の前の巨大な建物へともたれかかり、腰を下ろす。 「……参ったな、ディエチ……」 か細い声が、呟く。 天を仰ぎながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。 地獄の業火に飲み込まれたあの時、チンクはとっさに両腕を突き出し、防御態勢を取っていた。 爆発物の投擲を基本スタイルとする彼女にとって、何よりも失いがたい両腕を、である。 その結果かどうかは分からないが、どうにかこうして生き延びることはできた。 全身に負った火傷はひどく痛むが、それでも死には至っていない。 だが、その代償もある。 それこそがあの襲撃の現場に落ちていたものであり、そして彼女がたった今落としたもの。 アンジールが見つけたそれと同じように、ぼろぼろに焼け焦げて抜け落ちたのは――左腕。 「もう、姉は……戦えない身体なんだとさ……」 す、と。 金色の瞳から、一筋の雫が線を引いた。 【1日目 午前】 【G-7 デュエルアカデミア外部】 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望 【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA s、 被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、 大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕 【思考】 基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。 1.ディエチ……姉は…… 2.G-6~8を中心に、クアットロを探す。しばらくして見つからなかったら、病院に戻る。 3.クアットロと合流した後に、レリックを持っている人間を追う。 4.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。 5.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。 6.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。 7.十代に多少の興味。 8.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。 9.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。 10.天上院を手駒とする。 【備考】 ※制限に気付きました。 ※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。 ※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。 ※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。 ※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は 皆同一人物の可能性が高いと考えています。 ※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。 ※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。 協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車 保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた 要注意人物……十代 ※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。 ※アンデルセンが死んだことに気付いていません。 ※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。 ※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。 ※G-7のチンクの目の前には、炭化したチンクの左腕が落ちています。 Back Burning Dark(前編) 時系列順で読む Next Paradise Lost(前編) 投下順で読む Next 銀色の夜天(前編) チンク Next 過去 から の 刺客(前編) アレクサンド・アンデルセン GAME OVER アンジール・ヒューレー Next Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) ルーテシア・アルピーノ Next 過去 から の 刺客(前編)
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高町家の末っ子、高町なのはの朝は早い。 なのはは寝ぼけ眼をこすりながら立ち上がった。 「おはよう、レイジングハート」 レイジングハートに朝の挨拶をすませ、着替えを始める。 今日は寒そうなので暖かい服を選んだ。 着替え終えた後、魔法の練習を行うため桜台・登山道を目指す。 まだ日も昇っていない薄暗い海鳴市を一人歩く。 (う~、もうちょっと服を着てくれば良かったかな?) 予想を越える寒さになのはは体を震わせつつ先を急ぐ。 それから15分後、ようやく登山道に辿り着く。ここまで来れば残りは少しだ。 なのはは元気良く登山道を登り始める。 それと同時に日が昇り始め薄暗かった海鳴市が段々と明るくなっていく。 その光景を登山道が眺めるなのは。 (……綺麗だなぁ) なのははこの景色が大好きだった。 日光の反射によりキラキラと光る宝石のような海鳴市。 まるで、早起きした自分への神様からのプレゼントのように感じる。 そんな景色を見ながら歩を進めていくといつもの場所についた。 そして、いつものようにエリアサーチを行う。 エリアサーチを行いながらなのはは思う。 (ヴァッシュさんを見つけた時も今日みたいに寒かったなぁ……) ――早いものでヴァッシュさんが高町家で生活するようになって一週間がたった。 ヴァッシュさんも段々と翠屋での仕事にも慣れ、なかなか楽しそうにアルバイトをしている。 でも片腕が無いのであまりお客さんの前出る仕事はしていない。もっぱら、厨房で皿洗いやケーキの装飾などをしている。 ……それと、これはお姉ちゃんから聞いたことだけど、ヴァッシュさんは最近、翠屋に来る女子高生の間で人気になっているらしい。 なんでも『厨房にいる隠れ美男子』と呼ばれ密かに思いを寄せる人までいるらしい。 そのことをヴァッシュさんに言ったら、手を叩いて喜んでいた。 なのはは、その時のヴァッシュの様子を思い出し、おもわず笑ってしまう。 『周辺に人の反応はありません』 そんななのはにエリアサーチを終えたレイジングハートが声をかける。 「よし、それじゃ頑張ろっか。それで、今日はどんな訓練するの?」 『今日は広域防御魔法の練習をしましょうか』 「うん、分かった」 なのははコートとレイジングハートをベンチの上に置き、広場の中央へと進む。 そして、立ち止まり目をつぶる。 深く息を吸い、集中力を高めていく。 魔法を使用する上で大事なことは集中すること。 集中力が切れれば魔法が暴発することだってあり得る。 ――それは分かっている。分かっているんだけど、どうも上手く集中出来ない。 最近はいつもそうだ。何故か集中することができない。それは魔法に限ったことでは無く、勉強の時や遊んでいる時もそうだ。 この前もアリサちゃんやすずかちゃんに心配された。 ――何でだろう? いや、分かっている。 自分はあることで悩んでいる。 『……今日は止めときましょう、マスター』 「えっ?」 いつの間にか全く違うことを考えていたなのはに飛んできたレイジングハートからの言葉。 その意味が分からずつい聞き返してしまう。 『今の状態で魔法を使用しても失敗するだけです』 「そ、そんなこと……」 『いえ、失敗します』 なのはの言葉を遮りレイジングハートは続ける。 『先程のマスターは明らかに集中力を欠いていました。そんな状態では成功するわけがありません』 辛辣な言葉を飛ばしてくるレイジングハートになのはは一言も言い返せない。 『どうしたんですか、マスター?最近様子が変ですよ』 普段レイジングハートはこんなに喋る子ではない。 そのレイジングハートがここまで言うということは自分は相当な状態なのだろう。 『……ヴァッシュ・ザ・スタンピードのことですか』 その言葉に驚くなのは。 「なんで分かったの……?」 『マスターの様子を見ていれば分かります』 その言葉になのはは顔を歪める。そしてうつむき、ポツリと呟く。 「……分からないの。管理局にヴァッシュさんのことを伝えた方がいいのか、伝えない方がいいのか……」 ――なのはは悩んでいた。 ヴァッシュに管理局のことを伝えるべきか、伝えないべきか。 ――ヴァッシュさんは高町家に残ってくれた。 それはとても嬉しいことだ。……でも、それはずっとでは無い。 管理局にヴァッシュさんのことを伝えたらすぐにではないにしろ、ヴァッシュさんの世界は見つかると思う。 そして、自分の世界へ戻る方法が分かればヴァッシュさんはあの時と同じように悩むだろう。元の世界に戻るか、このまま高町家に残るか、を。 あの時のヴァッシュさんはとても苦しそうだった。 ――あんなヴァッシュさんを見るのはもう嫌だ。 でも、管理局にヴァッシュさんのことを伝えなかったら、ヴァッシュさんは一生元の世界に戻ることはできないと思う。異世界に帰るということはそれほどのことだ。 ――それをヴァッシュさんが喜ぶのか? もちろん自分にとっては喜ばしいことだ。 でもヴァッシュさんがそれを望むのか。それが分からない。 あの時は高町家に残る道を選んでくれたけど、あの時のヴァッシュさんには並々ならぬ覚悟を感じた。 その覚悟がヴァッシュさんを辛い世界で命を賭けた旅をさせているんだと思う。 その覚悟のことを知らない自分がヴァッシュさんの道を閉ざして良いのか? ――それがなのはには判断出来ない。 『……マスター、家に戻りましょう。今日は休日です、ゆっくりと休んで下さい』 レイジングハートは何も答えてくれない。 それはそうだ。これは自分が考えなくてはいけないことだ。 そう、ヴァッシュさんを引き止めた自分が。 「……そうだね。戻ってからゆっくり考えよっか」 なのはは笑みを作る。 レイジングハートを心配させないように。 だが、その笑みを見てレイジングハートの不安はつのる。 なのははそんなレイジングハートに気づくことなく、歩き始める。 ヴァッシュのことで頭を悩ませながら。 ■□■□ 「おはよう!」 家に着いたなのはが最初に見たのは笑いながら片手をあげるヴァッシュの姿だった。 まだ朝早くなのに元気な人だ。 「……おはよう、ヴァッシュさん」 陽気なヴァッシュとは対称的になのはは暗い。 そんななのはにヴァッシュが心配そうな顔をする。 「どうしたんだい?何か元気がないみたいだけど」 「な、なんでもないよ!」 なのはは慌ててごまかし笑いを浮かべる。 「……だったらいいんだけど」 訝しげな眼でなのはを見つめるヴァッシュ。 「そ、それよりヴァッシュさん、早起きですね!」 そんなヴァッシュを見てなのはは話題を変える。 「まぁね。前の生活で馴れちゃったからかなぁ、つい早起きしちゃうんだよ」 なのはの気持ちを察したのかヴァッシュもその話題にのる。 「へ~そうなんですか?」 「まぁ、早起きは三文の得ってね。早起きは良いことだよ」 ヴァッシュはヘラヘラと笑いながらそう言う。 だが、なのははこの言葉に対し―― 「……ヴァッシュさん、お年寄りみたい」 ――爆弾を落とした。 しかも、恐ろしい事にこの天然娘は自分が爆弾を放ったことに気付いていない。 「ヴッ!」 ヴァッシュの動きが止まる。 そりゃあ百数十年も生きてはいる。こんなことを言われたことが無いわけではない。……だが、これだけ純粋な子に言われるとショックだ。 ――負けるなヴァッシュ!幾度となく死線をくぐり抜けてきたお前だったら耐えられるさ! 自分自身に活を入れ、何とか気持ちを立て直すヴァッシュ。 だが、それも―― 「あ、そーいえばお兄ちゃんとお姉ちゃんも言ってたよ。ヴァッシュさんがお年寄りみたいだって」 ――再び投下された爆弾に粉砕された。 まさに会心の一撃。 何とか耐えていたヴァッシュもその言葉に崩れ落ちる。 「わ、わ、どうしたの!?ヴァッシュさん!」 いきなり机に突っ伏したヴァッシュを見て、なのは驚く。 「……いやいや、全然気にしてないよ……うん」 それから数分間ヴァッシュが立ち直ることはなかった。 ■□■□ 「……あ、そういえばなのは宛てでこんなのが届いてたよ」 ようやく立ち直ったヴァッシュはそう言い、懐からある物を取り出した。 「フェイト……って書いてあるのかな?」 それは小さな小包だった。 それを見てなのはは目を輝かせる。 「フェイトちゃんからだ!」 「フェイト?誰だい、それ?」 「私の友達です。……今は遠くにいて会えないけど」 なのははヴァッシュから小包――フェイトからのビデオメールを受け取ると嬉しそうにそれを見つめる。 ヴァッシュはそんななのはを見て理解した。 フェイトという子となのはがどれほど深い友情で結ばれてるかを。 「……僕も会ってみたいなぁ」 「なら今度遊びに来る時紹介しますよ!」 「本当かい?いや~楽しみだなぁ」 ヴァッシュはそう言い机の上に置いてあった朝刊を広げ読み始める。 ――今では楽々と新聞を呼んでいるが、ヴァッシュさんは全くと言っていい程、日本語の読み書きが出来なかった。 聞いたり話したりは日本人と見紛うくらい上手いんだけど、何故か読み書きになるとサッパリになってしまう。 まぁ、異世界の人なんだから仕方がないのかもしれないけど……。 それとお金の単位も元の世界と違うらしく、その事にも四苦八苦していた。 だが、驚いたのはここからだった。 何と、ヴァッシュさんは二週間で日本語の読み書きをほぼマスターしてしまったのだ。 これにはお父さんやお母さん、お兄ちゃん達も驚いていた。 当のヴァッシュさんも驚いていて、「いや~僕には勉強の才能があるのかもね」などとお気楽なことを言っていた。 今では新聞を読んだり、テレビを見たりしながらメキメキとこの世界の知識を身に付けている。 (フェイトちゃんもヴァッシュさんと会ったら喜んでくれるかな?) 黙々と新聞を読むヴァッシュを見ながらなのはは考える。 フェイトちゃんは少し内向的だけどヴァッシュさんとなら直ぐに仲良くなれる気がする。 ふと新聞から顔を上げたヴァッシュさんと目があった。微笑みかけてくる。 見ているものも和やかな気持ちになる笑み。 それを見てなのはは嬉しくなる。 ――ヴァッシュが毎日を楽しそうに過ごしている。 ――あの時のつらそうな顔はもうしていない。 それが嬉しい。 それどころか、ヴァッシュさんが来てくれたお陰で騒がしかった高町家ももっと騒がしく、そして楽しくなった。 ――ずっとこの日々が続いてくれれば。 心の底からそう思う。 そこまで考えなのはの顔に暗い色が灯る。 ――でも、分かってもいる。ヴァッシュさんは異世界の人だ。いつかはこの楽しい日々も終わりを告げる。 だけど、私が管理局に伝えなければ?この日々は終わらないかもしれない。 ――ヴァッシュさんはそれで良いと思うのか? 先ほど、レイジングハートに話した悩みがまた頭の中に浮かんでくる。 さっきまでのとても楽しい気分が段々と暗くなっていく。 「どうしたんだい?」 いきなりヴァッシュさんに話しかけられた。 その顔はどこか心配そう。 「別に何でもないよ」 それに対しなのはは何でもない、と言うように笑いかける。 その心配させないための微笑みが他人を余計心配させることを知らずに。 ■□■□ 「お使い……ですか?」 昼飯を食べ終わり束の間の休憩を味わっていたヴァッシュはそんな言葉を発しながら士郎を見た。 士郎から告げられたことは単純明快。 午後は厨房に入らなくていいのでお使いに行ってきてくれないか?とのこと。 別段断る理由もないが、何故この忙しくなる休日の午後から? 「でも、これから忙しくなるんじゃないんですか?」 その質問に士郎は手を振り答える。 「大丈夫さ。ヴァッシュ君はこの三週間、頑張ってくれたんだ。たまには休暇をあげようと思ってな」 そこで士郎は言葉を切ると台所で桃子の手伝いをしているなのはの方を見る。 「……それに最近なのはの様子が変だろ?出来れば元気づけて欲しいんだが……」 どうやら、そっちが本命らしい。 「そういうことなら任せといて下さい!」 ヴァッシュはドンと胸を叩き、にこやかな笑みを浮かべ承諾する。 (そうと決まれば善は急げだ) 「なのは、ちょっといいかい?」 「どうしたの、ヴァッシュさん?」 いきなり呼ばれたことに少し驚きながら洗い物から顔を上げるなのは。 「店長からの指示でね。ちょっとお使いに付き合ってくれないかい?」 「別にいいですけど……」 少し戸惑った顔でなのははそう呟く。 「よし!なら早速行こうか」 威勢良くヴァッシュは立ち上がる。そして二人は休日の海鳴市に繰り出していった。 ■□■□ 「え~っと、士郎さんから頼まれたのは……と」 「出来るだけ安いのを選んで下さいね!」 「大丈夫、大丈夫」 カートを押すなのはの横で、ヴァッシュが楽しそうに、野菜や食料をカゴの中へと入れていく。 鮮やかな金髪と左腕が無いことも重なり、相当他の人に注目されているが、ヴァッシュはそんなことを気にせずにポイポイと商品を手に取る。 なのははヴァッシュに合わせカートを押して行く。 「それにしてもこのデパートっていうのは面白いねぇ」 周囲を眺めヴァッシュは感嘆の声を上げる。 「これくらいのデパートだったらどこにでもありますよ」 「そうなのかい!?いや~スゴいなぁ!僕の世界にはこういうのが無かったからね」 楽しそうに歩くヴァッシュが、なのはにはまるで子供みたいに見えた。 「それに魚なんて見たこともなかったし」 ヴァッシュがカゴに入っている魚を指差しそう言う。 「そうなんですか?」 「うん。僕の世界では海っていうもの自体が存在しなかったからね」 「それなら今度、お母さんにお魚料理作ってもらいましょう!」 「いいねぇ~」 そんな他愛もない事を話ながら二人は買い物を続けていった。 ――楽しい。 なのはは正直にそう思った。 ヴァッシュさんの笑顔を見ているだけでこちらもつられて笑ってしまう。 こうしていると本当にヴァッシュさんをあの時引き止めていて良かったと思う。 ――だが、それと同時に再びあの悩みが頭の中に浮かんでくる。 『ヴァッシュさんのことを管理局に伝えるか、伝えないか』 (ダメだよ……!ヴァッシュさんもいるのにそんなこと考えてちゃ!) せっかくの楽しい気分が台無しになってしまう。 なのははその考えを振り払おうと頭を振る。 ――でも、いいの? 心の中で声が響く。 ――このまま答えを出すのをズルズルと引き伸ばして、本当にいいの? それはもう一人の自分が語りかけているかのように感じた。 ――そ、それは……。 ――ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃダメだよ。 ――で、でも、それじゃあ、またヴァッシュさんが苦しむんだよ!そんなの見たくない! ――……そうやって逃げるの? ――え? ――それは逃げてるだけだよ。それじゃあダメ。ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃ。ヴァッシュさんは悩むかもしれない、苦しむかもしれない。だけどその苦しみを通らなくちゃヴァッシュさんは先には進めないんだよ……。 ――で、でも……。 「もしも~し、聞いてるかい?」 「ふぇ!?ど、どうしたの!?」 ヴァッシュに話しかけられなのはは思考の海から急浮上させられた。 「なんかボーっとしてたよ」 「そ、そうかな?」 「あ、もしかして疲れたのかい?だったら言ってくれればいいのに」 そう言うとヴァッシュは買い物リストと山のようなカゴの中身を見比べる。 「……うん。頼まれたものは全部あるね。んじゃ行こうか」 ヴァッシュは微笑みながらそう言いカートを押し始める。 それなりに混んでいるのにそれをものともせずにスイスイと進んでいく。 ――どうすればいいんだろう? ヴァッシュを追わずになのはは考える。 ――まるで冷静で大人な自分と会話していたかのようだった。 どちらか正しいのかは分かっている。 でも、拒否してしまう、それが逃げだと分っていても。 「お~い!迷子になっちゃうぞ~!」 ヴァッシュさんがレジに並びながらこちらに手を振っている。 なのはは陰鬱とした気分のままヴァッシュの元へと向かった。 ■□■□ 会計をすませると、ヴァッシュさんがクレープを食べないかと進めてきた。なんでも自分の世界には無い食べ物なので食べてみたいとのことだ。 「美味しいですか?」 今なのはの目の前には両手に花ならぬ、両手にクレープ状態のヴァッシュがいた。 ヴァッシュは端から見ても分かるほど美味しそうにクレープを頬張っている。 「うん!美味しいねぇ!」 (ヴァッシュさんって花より団子なタイプなんだろうなぁ) 歓声を上げるヴァッシュを見てなのははそう思った。 それから二人で他愛もない話をしながらクレープを食べていると(ヴァッシュさんは追加でもう二つ買った)いきなり後ろから声をかけられた。 「あ、やっぱりいた!」 声のした方に振り向くと馴染みのある二人の女の子がいた。 「アリサちゃん!すずかちゃん!どうしてここに?」 「ん、その子達は誰だい?」 二人がそれぞれ疑問の声を上げる。 「みんなでお出掛けしようと思ってなのはちゃんの家に電話したの。そしたら士郎さんにデパートにいるって言ってたから……」 「そうゆうこと!……でそのトンガリ頭の人は?」 「ト、トンガリ……」 初対面にも関わらず、遠慮知らずのアリサの言葉に怯むヴァッシュ。 「ダ、ダメだよ……アリサちゃん。初対面の人にそんなこと言っちゃ……あのスミマセンでした」 「にゃははは……」 アリサの言葉にすずかはまるで自分が言ったかのように謝る。 それを見てヴァッシュは苦笑する。 「いやいや気にしなくていいよ。え~とすずかにアリサ、だね。僕はヴァッシュ・ザ・スタンピード。よろしく」 「ふーん、ヴァッシュねー。変な名前」 「ア、アリサちゃん!」 「へ、変な名前……」 「で、なんでなのははこのヴァッシュって人と一緒に仲良くクレープ食べてるの?」 「あれ、前に言わなかったっけ?」 なのはは首を傾げる。 「あ、もしかして長期のバイトさん?」 すずかが思いだしたかのように手を叩く。 「あ~あの、『厨房にいる隠れ美男子』って噂になってる」 「そう!その美男子こそ僕、ヴァッ「でもそれ程でも無いわよね」」 「ア、アリサちゃん!」 「何よ。本当のことじゃない」 ヴァッシュ・ザ・スタンピード、撃沈。 どうやらヴァッシュとアリサは予想以上に相性が噛み合うらしく、痛烈な口撃でヴァッシュは攻め立てられていた。 「ヴァ、ヴァッシュさん!アリサちゃん言い過ぎだよ!」 頬を膨らませそう言うなのは。 「ほら、アリサちゃん謝らなくちゃ」 「わ、分かったわよ。すずかはうるさいんだから……」 「何か言った?」 「な、何でもない……」「ほら、早く謝らなくちゃ」 「う~ごめんなさい」 渋々といった感じでアリサが謝る。 「いや……全然気にしてないよ……うん」 それにしてもこのヴァッシュ、押されっぱなしである。 「にゃははは……」 そんな三人を見てなのはは苦笑する。 ――とても騒がしく楽しい時間が過ぎていった。 ■□■□ 「ノォ~~~!ギブ!ギブゥ!」 その光景を一言で言うのなら異常。 公園の片隅にある砂場に五、六人ほどの子供たちが群がり暴れまわっている。 それをなのはとすずかは見守ることしか出来ない。 いや、あまりの気迫に止めようという気もおきない。 その子供たちの中心にいるのは、ド派手な金髪の頭をした一人の男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。 「よ~し、次は卍固めいくわよ~」 「そんなハイレベルな技どこで覚えたの……ってイタイ!イタイ!ギブ!ギブ~~~!」 ――そして、そこにはヴァッシュに対し今までにない爽やかな笑顔で関節技をかけているアリサがいた。 更にそれに続くように、他の子供たちが各々に好きな技をヴァッシュにかけている。 ――何故こんな事になったのか順を追って説明していこう。 四人はデパートの帰り道公園へと立ち寄る→なぜか、そこに居た子供たちがヴァッシュに群がり始める→最初はまとまりつくだけだったが徐々にエスカレートしていき関節技祭りに突入→見かねたアリサが仲裁に入る→ミイラ取りがミイラ。 そして今にいたっている。 めくるめく展開の早さになのはもすずかも止める暇さえなく、ヴァッシュは子供たち+アリサの玩具にされているのであった。 「どうしよう?なのはちゃん」 「う~ん、飽きるまで待つしかないのかな……」 「ヘルプミ~!」 アリサたちを止めるのを早々に諦めたなのはとすずかは近くのベンチに腰を下ろす。 何か声が聞こえたが気にしない。 ――二人とも良い判断だ。 「アリサちゃんも楽しそうだね」 元気に暴れまわるアリサを見てなのはは心の底からそう思った。 「そうだね」 すずかも相づちをうちその光景を眺める。 (ヴァッシュさんも楽しそう) 所々で本気で痛そうな声を上げているが、まぁ楽しそうだ。 それを見てなのはの顔に自然と笑みが浮かんでくる。 「良かった……」 ふいに隣にいるすずかが声を上げた。 「?何が?」 すずかの言葉の意味が分からずなのはは首を傾げる。 そんななのはを見て嬉しそうに笑いながらすずかが口を開く。 「なのはちゃんが本当に楽しそうな顔してて……」 「ふぇ?そんなことないよ、いつも楽しいよ」 「うそだよ。最近のなのはちゃん、いつも何かに悩んでるような顔してたもん。アリサちゃんなんか、ずっと心配してたんだよ」 すずかは真っ直ぐになのはの目を見て話す。 「今日みんなで遊ぼうって話になったのだって、なのはちゃんに元気になって欲しかったからなんだよ」 すずかの言葉になのはは何も言えなくなってしまう。 「だから良かった!今日のなのはちゃん本当に楽しそうだもん」 微笑みながらすずかはそう言うと、アリサとヴァッシュの方に駆けていく。 (気付かれないようにしてたんだけどな……) 本当にあの二人にはかなわないな……。 ――アリサちゃん……すずかちゃん……ありがとう……。 なのはの心に浮かぶのは感謝の気持ち。 二人には心配かけてばかり。いつもこうだ。 (ダメだよね……このままじゃ……) ――なのはは決意した。 それと同時に立ち上がりみんなが暴れている方へ走り出す。 その顔にあるのは笑顔。 ――その笑顔は見ただけで人を和ませる最高の笑顔だった。 ■□■□ 「あ~体中が痛い……」 「にゃはは……」 すっかり暗くなった公園。 そこのベンチにヴァッシュとなのはの二人は座っていた。 もう時刻は六時を回ってる。 子供たちやアリサたちも帰ってしまい、ここにいるのは二人だけ。 「それにしてもアリサは凄いねぇ。将来格闘技でもやった方がいいよ。うん」 この場に本人がいたらかかと落としの一発でも飛んできそうなことをヴァッシュが言った。 「でも、ヴァッシュさんも楽しそうだったよ」 「まぁね。こういうのも久しぶりだしね」 「久しぶり……って前にもあったんですか、こういうの?」 「うん」 ヴァッシュはさも当たり前のように肯定する。 流石に、これにはなのはも呆れてしまう。 「まったくヴァッシュさんは……」 そんななのはを見てヴァッシュは嬉しそうな笑みを浮かべる。 「……いや~良かったよ」 「何がですか?」 「なのはが元気になってくれてさ」 「え?」 「自分で気づいてなかったのかい?最近よく張り詰めたような顔してたよ」 ヴァッシュは優しく語る。 (ヴァッシュさんにもバレているとは……。私ってそんなに顔に出やすいのかな?) こうしてみると悩んでいるのを必死に隠していた自分がバカみたいだ。 なのはは苦笑する。そして苦々しい笑みはどんどん本当の笑みに変わっていく。 ――心が軽くなった気がする。 「ねぇ、ヴァッシュさん」 なのははその笑みのままヴァッシュに語りかける。 「ん、なんだい?」 「この世界は楽しいですか?」 「あぁ!とっても楽しいよ!」 ヴァッシュはなのはの問いに迷うことなく答える。 なのははそんなヴァッシュを見て、決めた。 管理局にヴァッシュのことを伝えない、と。 ――せめて……せめてヴァッシュさんの傷が――ヴァッシュさんの心にある大きな傷がが治るまでは管理局に伝えなくても良いんじゃないかな……。 なのははそう思う。 ――あんな辛そうな顔で元の世界に戻ろうとするヴァッシュさんは嫌だ……。 戻る時はせめて笑いながら、元の世界に帰って欲しい……。 だから、その笑顔を取り戻せるまでは―― なのはは決意した。 ――自分の我が儘かもしれない。 でも、ヴァッシュさんがどちらの道を選ぶにせよ苦しまないで、笑いながらその道を選べるようになるまでは、なのははヴァッシュを守ろうと決意した。 お気楽な笑みを浮かべる人間台風を眺めながら、小さな魔導師はそう決心した。 前へ 目次へ 次へ
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デジモン・ザ・リリカルS F 第二話 「少女と龍」 キャロとアグモン、フリードは、ジャングルの中を歩いていた。一番近い街でも十数キロ先という場所に何故いるかというとそこしか、街に行く道はなかっただけであった。 「ハァハァ疲れたね」 「オイラもキツイよ、姉御ぉ」 「もう少し、頑張ろう。日が暮れるまでにジャングルを抜けなきゃ」 とは言ったものの、たかだか、10歳の少女の体力である。既に限界は越えている。それに食料などもなく、三日間飲まず食わずだったのだ。数百メートルいくと倒れてしまった。 「姉御!」 アグモンはそう言うとキャロに駆けよった。フリードも心配そうにキャロを見つめる。アグモンが額に触れると呟いた。 「凄い熱だ、どうしよう…、近くに街はないし…」 「キュウゥ~!」 「え、なになに、『近くに洞窟がある』だって!でかした、フリード!」 そう言うとアグモンはキャロをおぶって、その洞窟へと歩いていった。数十メートル行くと、そこには、フリードの言った通り、洞窟があった。アグモンは恐る恐る中に入っていった。 そこは、誰か住んでいるようで、洞窟の壁には服と見れるものがあり、また大量の果物やキノコなどが置いてあり床にはベッドのような物があった。 その脇には、良くは見えないが写真があった。とにかく、キャロを寝かせようと思った時、後ろから声が響いた。 「あなた達は、だ~れ?」 「誰だろうね?」 振り向くとそこには赤い龍型デジモンと幼い少女がいた。 少女はライトブラウンの髪にリボンを二つ結び、その右目は翡翠のごとく輝く緑、左目は夕暮れのごとく透き通った真紅の瞳を持っており、体には質素なワンピース風の服を纏っていた。 「え~っと、オイラはアグモン。」 「フ~ン、アグモンかぁ!私は高町ヴィヴィオ!で、この子がお友達のギルちゃん!」 「僕、ギルモン!よろしくぅ」 「ねぇねぇ、どうして、こんな所にいるの?」 「街まで行こうと旅をしていたら姉御が熱を出して、倒れたから運び込んだだけなんだ。」 「姉御ってだぁれ?」 「オイラを庇ってくれたりする心の強い人でオイラの自慢の姉御、キャロ・ル・ルシエってんだ」 「キャロお姉ちゃん!?本当なの。」 「当たり前だよ!此処に居るじゃないか」 それから一時間してキャロは目を覚ました。 「姉御!しっかりして姉御!!」 「う、う~ん…。アグモン?それにフリード?そっか私、倒れちゃったんだ」 「良かったぁ!あ、そうだ姉御、これ着替え!姉御の服は今、洗ってるんだ」 言われて見ると確かに今まで着ていた服はなく、半裸だった。 「え、あ、ありがとう!」 そう言うとキャロは渡された服を着た。どうやらそれは男物を仕立て直した物らしく少し大きめだったが何とか着ることが出来た。 「姉御、似合ってるよ!」 「そ、そうかな?」 その格好はTシャツの様な上着と短いスカートを履きマントを纏うというものだった。 「お兄ちゃんの服似合ってるね!」 「嘘!?ヴィヴィオちゃん!?」 「うん、そうだよ!」 「良かったぁ、無事だったんだ~。ところでさっきから言ってるお兄ちゃんって?」 「えっとねぇ、ヴィヴィオとずっと暮らしてたの。で、今は南の方にお出かけしてるの」 「お兄ちゃんの名前は?」 「イクトって言うんだよ。野口イクト!」 「ヴィヴィオ~洗濯終わったよ~。今持ってくねぇ」 「分かったぁ。ありがとうギルちゃん!」 「ギルちゃん?」 「ギルモンって言うデジモンらしいですよ、姉御!」 「持って来たよぉ。とっ、とっ、とっ、うわっ」 洗濯物をばら蒔いてしまったギルモン。その中にはキャロの下着もあった為、さすがにキャロも慌てて片付けた。 アグモンはヴィヴィオと話をしていた。 「へぇ~、その写真の人はヴィヴィオのお母さんなんだ」 「うん、とっても大好きなんだ」 母親のことを思い出し少し落ち込んでしまいアグモンは狼狽えた。 「ゴメンね。気に触ること言ったかなぁ」 「ううん、大丈夫!今は、ギルちゃんも居るし寂しくないよ!」 そう言って笑うヴィヴィオ。アグモンにはそれが悲しげに見えたという。 「そう言えば、ギルモンのことあんまり聞いてないなぁ」 「じゃあ、教えてあげる」 ヴィヴィオは語り始めた、初めてギルモンとあった時のことを。 それは、嵐の晩のことだった。ヴィヴィオは、いつものように夕食をとり、眠りに就こうとした時だった。 外で、ドサッ、という物音がした。そして、ヴィヴィオが外に出てみるとそこには赤い騎士の様な影が見え、近づいて見るとそこには赤き龍が倒れていた。 「それが、ギルちゃんだったって訳なの」 「フ~ン。そんなふうに出会ったんだぁ!」「あ、そういえばギルちゃんとあった時、こんな声が聞こえたんだよ!『我が友のことを頼むぞ、幼き少女よ。我は影から見守って行こう。』て言う声がした後、白い鎧っていうのかな、左手が剣の人影が見えたんだ。」 そんなふうに喋っていたその時、茂みから唸り声が響いた。 「ウオォォ!」 そして茂みから出て来たのは、トータモンであった。 「力を試すには丁度いい。お前ら、死ねぇ!」 「ヴィヴィオちゃん下がって、ベビーバースト」 アグモンはベビーバーストを放つが全く効かなかった。 「堅い…、どうしよう。」 「待ってて、今、進化させ…」 「無茶だ!今の姉御じゃあチャージは出来ないよ」 「死ぬ覚悟は出来たなぁ。し、グオッ!」 「ヴィヴィオに手を出すなぁ!ファイアボール!」 トータモンがヴィヴィオを襲おうとした時、ギルモンが乱入し火球を放ち牽制した。 「えぇい邪魔だぁ!シェルファランクス!」 そう言うと甲羅のトゲが一斉に飛び、ギルモンを吹き飛ばした。 「ギルちゃん!」 「大丈夫だよぉ」 「私、私ギルちゃんの力になる!」 そう言ったヴィヴィオの周りを眩いほどの白銀のデジソウルが覆いい、その右手には、瞳の色と同じ、透き通った赤と緑のデジヴァイスicが握られていたのだ。 「ギルちゃんに力を!デジソウル、チャージ!」 その眩き銀のデジソウルはギルモンへと降り注いだ。 『ギルモン進化ぁ!グラウモン!』 そこには真紅の魔龍、グラウモンの姿があった。 「ヴィヴィオに指一本触れさせない!」 「ふざけるな!シェルファランクス!」 しかし、今度はシェルファランクスは届くことはなかった。 「プラズマブレイドォ!」 「な、なにぃ!?」 全てのトゲを真っ二つに斬られてしまったのだ。 「これで終わりだぁ!エキゾーストフレイムゥ!」 そう言って爆音と共にトータモンへと強力な火炎を放った。 「力を手に入れたばっかりなのにぃ…」 そう言い残しトータモンはデジタマへと戻ったのであった。 「ギルちゃん、凄い!」 「えへへ、褒められたぁ」 そう言いながらじゃれあう一人と一匹。 キャロは何かを決心したようにアグモンの方を向いた。 「決めた。ヴィヴィオちゃんを連れて行こう!」 「えぇ~!本当!」 「本当!」 「やったぁ!」 「大丈夫、姉御ぉ?」 「な、何とかなるよ」 前途多難な旅路に不安がる二人を見つめる影が二つ。 「やっぱり、ダメダメだな。私がしっかりしないと。な、ガオモン」 「イエス、マスター」 次回 デジモン・ザ・リリカルS F 第三話 「疾風と鉄槌」 お楽しみに! 戻る 目次へ 次へ
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リリカル・グレイヴ 番外編 「ツギハギと幽霊と女の子」(前編) 静寂の支配する夜闇の中、シンシンと雪が降る町を歩く奇妙な二人の男がいる。 一人はツギハギのある古ぼけたコートを着込み、両の目を塞ぐ眼帯に顔にすら傷を縫った跡がある全身ツギハギだらけで白髪の男だった。 男の名前は屍十二(かばね じゅうじ)、故あって旅をする死人兵士。 そしてもう一人の男は赤いレザーの上下にエレキギターを担いだ(厳密に言えば担いでいる訳ではないが)金髪リーゼントの陽気そうな男。 ロケット・ビリー・レッドキャデラック、エレキギターBL20000V(ブルーライトニング、トゥエンティサウザンドボルト)に憑依する愉快な幽霊だ。 ある理由によって様々な世界を旅するこの二人は偶然立ち寄ったこの町でとある少女に出会った。 それは幼き召還師、里を追われた悲運の少女キャロ・ル・ルシエである。 雪に彩られる夜の町の片隅で少女は嗚咽を漏らしながら一人寂しく泣いている。 その震える肩と、頬を伝い流れ落ちる涙の雫はどこまでも儚げで、見る者の心を揺らさずにはおかない。 そのキャロの様子に十二は苦々しい表情を浮かべる。 眼の見えぬ彼は視覚を除く様々な感覚で外界を把握している、故にキャロがどれだけ心の底から悲しんでいるかが分かるのだ。 そして十二はボリボリと乱暴に頭を掻きながらキャロに声をかけた。 「なに泣いてんだメスチビ、うるせえから静かにしてろや」 最悪に乱暴で粗雑な言葉、それでも声をかけられたキャロに彼の言葉にはどこか温かさが滲み出ているような気さえした。 十二の言葉に驚いて振り向いたキャロは唖然として十二とビリーの二人を呆けたように眺めている。 するとビリーがまるで空気を入れ替えるように、陽気に喋りだす。 「おいおいジュージ~、可愛いレディにそりゃ無いぜ?」 「うっせえ、辛気臭く泣かれてちゃあ迷惑なんだよ」 「相変わらず口が悪いなぁジュージ‥‥‥さて可愛いお嬢さん、君の瞳に涙は似合わない良かったら訳を聞かせてもらえないかい?」 ビリーはそう言うと丁寧に頭を下げてキャロの前に跪いた。 △ 「ふむふむ、なるほどねぇ~。住んでた里を追われたと‥‥それは災難だったね、まったく君みたいな可愛いレディになんて事を」 十二とビリーはひとまずキャロの暖をとる為に場所を近くの喫茶店に移し、彼女からその身の上話を聞いた。 ちなみに異様な風体の客に店員一同が不審そうな目で見ているが、そんな事を気にする十二とビリーではない。 そしてキャロは注文した温かい紅茶を飲みながらやっと泣き止んで落ち着いたが、彼女の身の上話を聞いた十二は最悪に機嫌の悪そうな顔をしていた。 「おいメスチビ、てめえの里とかいうのはどこにあんだ?」 「“メスチビ”って、酷いです‥‥‥それよりそんな事聞いてどうするんですか?」 「決まってらぁ、殴りこんでてめえを引き取らせる」 十二はそう言うと手をポキポキと鳴らして凶暴な空気を放つ。 この男は冗談抜きで実行しかねないから恐ろしい。 その様子にビリーは“やれやれ”と言って肩をすくめる。 「おいおいジュージ、お前って奴はどうしていつもそう暴力的なんだ。もう少しスマートに行けないのか?」 「うるせえぞRB、こんな小せえガキをおっぽり出す奴らなんざ軽くボコって何がワリいんだよ」 宥めようとするビリーに向かって十二は怒りを剥き出しにして吼える。 十二とビリーのこのやりとりに、事の発端であるキャロは慌てて割って入った。 「あ、あのっ! 別に良いんです。私のせいで‥‥里のみんなに迷惑は掛けたくないですから‥」 「でも良いのかい? これから一人で生きていくなんて」 「はい‥‥みんなに迷惑をかけるくらいなら‥‥」 十二に向かって説得するキャロだが、言葉尻の語気は弱弱しい。 ある日突然、寒空の中に一人故郷を追われた孤独だろう、キャロの瞳はうっすらと涙で濡れて肩は小刻みに震えている。 それでも自分の故郷に迷惑をかけるくらいならば、一人孤独に耐える道を行こうと言うのだ。 十二は苦虫を噛み潰したかの如く、実に機嫌の悪そうな顔をして席を立つ。 「おい行くぞRB」 「っておい、ジュージ~」 止めようとするビリーに目もくれず十二はズカズカと店の外の出て行く。 キャロはまた一人になる寂しさに泣きそうな顔になる。 だが十二は一旦立ち止まるとキャロに向かって声をかけた。 「何やってんだメスチビ、早く来ねえと置いてくぞっ!!」 「えっ!? あ、あの‥‥それってどういう‥」 「お前どうせ行くアテなんか無えんだろうが。なら俺らと一緒に来やがれって言ってんだよっ!」 「でも‥‥そんな、屍さん達に迷惑かけちゃ‥」 「チビがいっちょ前にゴタク言ってんじゃねえぞゴラァ! さっさと来いボケナスが!!」 十二はキャロの頭を軽く小突くと、手を引っ張っていった。 素直になれない十二の親切さにビリーは思わず苦笑する。 こうして、ツギハギだらけの死人とエレキギターに憑いた幽霊そして竜召還師の女の子という奇妙な一団の旅が始まった。 続く。 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのはStrikers 高町なのは フェイト・T・ハラオウン 八神はやて SP:127 能力 コマンド 消費 SP:124 能力 コマンド 消費 SP:128 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘140 集中 15 性格:冷静 格闘152 直感 20 性格:普通 格闘137 集中 10 射撃153 直感 20 射撃146 迅速 20 射撃152 分析 20 防御110 狙撃 15 防御 99 集中 15 防御 98 直感 20 成長:普通型B+ 技量181 てかげん 1 成長:普通型B 技量181 突撃 30 成長:普通型B 技量181 直撃 30 回避174 魂 50 回避179 魂 50 回避172 友情 35 命中178 愛 65 命中175 絆 55 命中181 期待 60 スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター SP:126 能力 コマンド 消費 SP:119 能力 コマンド 消費 性格:強気 格闘151 加速 15 性格:普通 格闘139 必中 20 射撃138 集中 15 射撃151 努力 15 防御104 不屈 10 防御 97 狙撃 15 成長:晩年型A+ 技量173 闘志 30 成長:晩年型A+ 技量175 集中 15 回避172 気迫 50 回避170 熱血 35 命中173 魂 55 命中177 かく乱 55 エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ SP:121 能力 コマンド 消費 SP:127 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘146 集中 15 性格:普通 格闘129 分析 20 射撃136 必中 25 射撃145 応援 35 防御103 気合 30 防御101 信頼 20 成長:晩年型S 技量167 突撃 30 成長:晩年型A+ 技量165 直感 20 回避171 不屈 15 回避166 直撃 35 命中171 勇気 60 命中173 覚醒 70 隊長たち3名は、能力的にはガンダム系のエースパイロットに似た設定にしている。 フォワード4名は才能あふれる新人として、全員大器晩成型の成長タイプにした。。 なのはに関しては、フォワード人の教官としての立場や模擬戦から、てかげんを導入。 愛を習得させるか不屈を習得させるかで迷ったが、彼女の本来の優しさを表すために愛で決定した。 防御系魔法と、元々の素質から防御値は高くした。 射撃値の大きさや命中値、コマンド等から、高機動・射撃戦主体のキラと似たスタンスになっている。 (没となったコマンド 不屈・激励・直撃) フェイトは格闘戦メイン、ライオットザンバー等の武器から突撃を採用。 なのはよりも高機動な為、迅速を所持している。 遠距離戦もこなす為、なのはに比べて全体的なバランスは良い。 最後のコマンドの絆は、無印からの引用。 愛はなのはに譲った。 (没となったコマンド 気合・愛・友情) はやての能力値は広域魔法による殲滅戦をモチーフにしている。 格闘値については、本人が接近戦を捨てているため極力低くした。 SSランク魔導師だが、なのは達に比べて実戦経験がそこまで多くないので、技量値は同じになった。 Asの頃の設定を残し、絆を取るか友情を取るかでフェイトと比べたが、現在はこれで安定した。 彼女の家庭的な優しさから、こちらの方がしっくりくるかもしれない。 (没になったコマンド 絆・覚醒) スバルは、戦闘機人としての能力は反映されていないが、格闘主体としての能力を色濃く設定した。 射撃値は、ディバインバスターがあるが遠距離砲撃とは言い難いので、低く設定した。 ウイングロードがあるので加速を設定。他のキャラにも使えるので、追風でもいいかもしれない。 戦闘機人としての〔覚醒〕は、気迫と闘志に代わりオミットされた。 (没になったコマンド ド根性・気合・突撃・覚醒) ティアナは、本人が認めている努力を軸として設定している。これは彼女という存在の最低条件でもある。 凡人と言っているがそんなことは無い。 最初のコマンドを、集中か必中かで迷ったが、二丁の銃を扱いこなす素質から必中になった。 幻術使いでもあるので、かく乱を設定した。 (没になったコマンド 根性・ひらめき・信頼・直撃・突撃・) エリオは唯一の少年キャラであり、ガリューに恐れず立ち向かったキャラの為、必然的に勇気を覚える。 子供の為、一般的なキャラよりもコマンドの消費は多い。 瞬発力は高いため、フォワードで2番目に高い。 技量値は10歳の子供にしては高く設定した。 (没になったコマンド エリオは迷わず確定した。) キャロはサポートが主なので、他の3人に比べて能力は低い。 サポート関連として応援を所持している。 召還魔導師として、覚醒を設定した。 感応は、今作に登場しないリインフォースが担当するので設定しなかった。 (没になったコマンド 幸運・感応・集中)
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最初に出てきた一機に高速で肉薄。新手のまったく同じ機体が後方から動こうとするが 一機がそれを右手で制するような動作をする。 「一機で十分って言うのか!?」 一機が迎撃体制に入る。左肩の大型火器ではなく右肩の誘導弾を発射。 二発の誘導弾はすこしづづ違う軌道をとりながら急速に距離を詰める。 ノーヴェはジェットエッジをさらに加速。直撃など受けはしない。先ほどのように近接信管が起動する前に 一気に距離を詰め、自分のリーチに入り込む。 「まずは一機!!」 至近距離なら外しはしない。ノーヴェには自信があった。 至近距離から相手がばら撒くパルスライフルの弾幕を左二の腕のシールドで防御。さっきのエネのハンドガンに 比べれば熱も持たなければ一発も重くない。 「もらった!!」 右手に意識を集中。金色に光る右の拳は通常でも威力のあるノーヴェの拳がさらに強化されたということを意味する。 必中の間合い、一撃で倒せなくても当れば確実にダメージは通る。 だが、赤と黒の機体は振り上げられたノーヴェの右手の動きを読むかのように後方にステップ。 ノーヴェの右手は空を切った。それを狙ったのかのように左手のブレードに刃を形成、ノーヴェを狙う。 今度はノーヴェが受ける番。だがノーヴェは落ち着いて身を屈めてブレードを回避。そのまま左足を起点に一回転。 右足のジェットエッジを点火、加速させる。狙うのは相手の胴体と脚の接続部分、つまり一番弱い部分。 「はぁぁーー!!」 気合を乗せて蹴りを打ち込む。当れば生身だろうと魔導甲冑だろうが只ではすまない、・・・筈だった。 「っが!!」 ノーヴェの右足は受け止められた。しかも右手一本で。 「くそ!!・・・こいつ、離せよ!!・・・ぐぁ!!」 掴んだ右足をさらに強く握りこみノーヴェを持ち上げると地面に向かって振り下ろした。 地面の衝撃にノーヴェの視界にノイズが走る。体が受け止め切れなかった衝撃が与えるダメージの警告が 表示される。痛みもダメージもすべてノイズとしてカット。 「・・くそ!!離せよ!!」 だがまだ掴まれたままだった。そのまま何度も振り上げられては地面に叩き付けられる。 まるで甚振れる獲物を見つけたの喜ぶかのように頭部のレンズが光った。 それを見たノーヴェの心を恐怖が支配する。 『くそ・・・、こんな所で!!』 必死に人間的な感情を押しつぶす。腹筋部分を使い上半身を上げ、拳を叩きつける。一瞬、右足を握る腕の 力が緩んだ。その一瞬を使い左足裏を打ち込む。そのまま必死に転がり距離をとる。 頭の中で警告が鳴り響く。そのすべてを消去し相手に集中する。骨格・関節はまだ大丈夫、神経接続、 人工臓器・筋肉もダメージはまだ許容範囲!! 『こんな所でやられる訳には行かないんだ・・・。ギンガ姉に教えてもらった技術がどこまで通じるか 証明してやるんだ!!・・・それがあたしなりの恩返しなんだ!!』 ノーヴェが構える。相手の赤と黒の機体は不気味なぐらい静かに、本当にボロボロの機体なのかと 疑いたくなるくらいに静かに、そして動いている。 「ちくしょう、余裕を見せてるつもりか!?」 それがノーヴェの癇に障った。自分は余裕をなくしていた。ギンガとチンクが、 姉達が一番心配しているノーヴェの性格的な欠点が危険なところで表に出てきていた。 「うおぉぉぉーーーー!!」 一直線に突っ込む。そこに誘導弾を打ち込まれ、さらにパルスライフルが火を吹く。 「うぉぉぉーーー!!」 左右両手のシールドで体の前面を防御。魔力片が当ろうが、破片が掠めようが、魔力弾が装甲を削ろうが お構いなしに定めた相手を目指して突っ込む。 両手のガンナックルの先に力を集中。一撃で当らないのなら打撃を繰り返すのみ!! 必要以上に力を入れた動きほど読まれやすいものは無かった。 ノーヴェの続けて打ち込む拳を一機は簡単に避ける。面白がり、ノーヴェを弄ぶように・・・。 「・・こいつ!!こいつ・・・!!」 闇雲に拳を振り上げる。それが終わるのはあっという間だった。 「ぐっ!!」 相手の左拳が正確にノーヴェの胸を打った。思わず態勢が崩れるノーヴェ。そこに追撃で膝が伸びる。 膝が腹部に入る。ふらつきながらそれでも上半身を立ち上げるノーヴェの額をライフルの握把で叩く。 ふらつきながらなおも立つノーヴェの首を左手で掴み締め上げ、体ごと持ち上げる。 頭の中で警報音が鳴り響く。必死に振りほどこうとするが、まったく歯が立たない。 意識が遠くなり、耳も目も機能不全を起こしつつある体を赤と黒の機体は狙い、右手を構えた。 『畜生・・・!!うご、うごい・・・、から・・・だ・・・』 機能不全を起こしつつある体で一瞬轟音が耳に届いたような気がした。 次に感じたのは自分が振り回される感覚と左腕のごく至近で相手がパルスライフルを発砲したため、 知覚できた熱風だった。 その次に感じたのは自分が放り投げられ、飛んでいく感覚。 「私の妹を!!離しなさい!!」 一瞬誰かの声が聞こえた。だが先ほどのダメージでまだ体は麻痺していた。動けない。 頭から落ちればいくら頑丈な自分でも、もう・・・。 『ごめん、チンク姉、ギンガ姉・・・。ハチマキ・・・、出来の悪い妹で・・・』 機能が低下し、ぼやける視界に左肩のグレネードランチャーがこちらを向くのが見えた。 閉じた目でも感じれるほどの赤い光と爆発音、そして思ったより軽い衝撃。 最後には誰かにやさしく抱きかかえられる感触がした。固く結んでいた目を振るえながら目を開ける。 「・・・ハチマキ?」 「よかった・・・、首を掴まれてるのを見た時はもう駄目かと思った・・・」 スバルの展開したウイングロードの上でスバルはノーヴェをキャッチ、抱きかかえていた。 「スバル・・・姉・・・?」 「・・・大丈夫?・・・まだ痛いところはある?」 スバルの両目に涙があふれているのが見えた。自分のために泣いてくれている。本当の血の繋がった妹でもなく、 同じ遺伝子モデルを使っているわけでもない。幾度も血塗られた戦いを演じ、今でも些細なことから喧嘩をする。 「・・・ごめん、・・・スバル姉、ごめんなさい・・・」 「駄目だよ泣いちゃ・・・」 スバルが汚れるのも構わずバリアジャケットの袖で汚れたノーヴェの顔を拭いてやる。 「スバル、ノーヴェ、無事を確かめるのは後よ。今は目の前の敵を倒すわよ」 「うん、ギン姉!!」 まだ戦闘は終わっていない。ギンガは一機と相対し、遅れてドーム内に突入したなのはは様子見していた もう一機に照準を合わせていた。 「ノーヴェはここで待ってて。すぐに終わらせるから・・・」 そういうと壁にノーヴェをもたれ掛けさせ、休ませる。戦闘の場所においておくのは危険だが 今はゲートの向こうに送り届けるのは難しい。 「大丈夫だ!!まだ・・・、まだやれる!!」 体内と装備品の状態をスキャン、損傷・大破した部位との接続・修復機能を停止。修復を切断された神経系、 破損の軽い人口筋肉・関節に集中。それでも体の動きは硬くぎこちない。 「ギンガ姉、スバル姉、わたしはまだ出来る、まだやれるから・・・!!」 それを聞いたギンガが振り返りやさしく微笑みながらうなずく。スバルは一瞬きょとんとした顔をしたかと思えばすぐに いつもの精悍な笑顔を見せる。 「うん、それでこそ私の妹だよ」 「・・・ああ」 「スバル、私の右に、ノーヴェは左に」 ギンガが指示を発する。すぐにスバルが位置に付き、遅れてノーヴェが位置に付く。 二人のデバイスと直接リンクする。 <大丈夫ですか?> リンクしたマッハキャリバーが心配して聞いてくる。 『大丈夫だ、けどうまく機動出来ないかもしれないからサポートしてくれ』 <了解。お任せください> 「ミッドチルダ方面管区、108捜査警ら隊・第一捜査中隊、ギンガ・ナカジマ曹長!!」 「スバル・ナカジマ陸士長、陸上総隊総監直轄、特別救助隊所属!!」 「末妹、ノーヴェ・ナカジマ、ミッドチルダ方面管区第757調査捜索部隊、えーと・・・本部班の備品!!」 名乗りを上げた後、三人がそれぞれウイングロードとエアライナーを展張。 「「「行きます!!」」」 三人同時に加速。一人たりとも遅れることは無い。すべてが一致した加速。 目標は一つ、末妹を傷めつけてくれた一機!! 先頭は長女のギンガが受け持ち、相手に向かって突撃する。右翼、やや下がった位置にスバル。 『ノーヴェは立ち位置を変えて、ギン姉と私のシールドの内側に!!』 『了解、スバル姉!!』 目標となった一機は誘導弾と火器で弾幕を張り、中量二脚の利点を活かし高機動を活かして左右に上に動く。 動き回る相手の張る弾幕を大きいダメージを受けているノーヴェには破片ひとつでも致命傷に なりかねないための処置。 『接近すればグレネードランチャーは使えないわ。接近戦で撃破します!!』 『『了解!!』』 三人で息を合わせて正面と左右から相手の逃げ場を無くしつつ追い込み、相手を撃破する。 三姉妹の特性を活かしたは取れないが、三姉妹がリンクしおそらくは誰にも真似が出来ない正確に動きは出来る。 「トライシールド!!」 まずはギンガが近接戦闘を挑む。シールドでパルス弾に誘導弾、すべてを受け止め肉迫。 『すごい・・・。やっぱり防御魔法が使えれば・・・』 それを見たノーヴェが感想を漏らす。 ギンガは飛び上がる相手を逃さないようにウイングロードを展帳、さらにブリッツキャリバーで加速。 つづいて左手のリヴォルバーナックルのカートリッジをリロード。 魔力の籠められた左手の拳を打ち込む。 それを相手は右手の篭手で正面から受け止める。だがまだギンガの連撃は終わってはいない。 「ブリッツキャリバー、カートリッジロード!!」 左手のリヴォルヴァーナックルを下げ、もう一度打ち込む。同時に右手に魔力を収束。 『ギン姉、それって・・・』 『スバル、ちょっと参考にさせてもらったわよ』 右手の魔力塊が形になっていく。スバルのように純粋な魔力弾ではなく杭のような芯を有した魔力弾。 「さすがに・・・、女の子にドリルは恥かしいわよ!!」 一応、あのドリルは恥かしいらしい。 サーベルが振り下ろされる。後退して回避。髪の毛が何本か焼かれる。 「ボディブレイカー!!」 収束した魔力弾を左手で打ち込む。細い一本の黄色の軌跡を残して飛んで行く。狙ったのは腰部。 一直線に飛び命中、直撃。だが当ったのは狙った腰では無く、左足の大腿部。 『慣れない事はやる物じゃないわね・・・。ノーヴェ、次!!』 「了解!!」 ノーヴェが目標のやや左正面、上側からブレイクライナーで接近 「さっきのお返し!!」 右手が光る。先ほどは外したが相手は元々ボロボロの機体。しかも左足は損傷、動きは制限されている。 「私だってやってみせる!!・・・ハンマーダウン!!」 相手がギンガにかまけていた隙を使って接近する。 隙を利用し思いっきり横合いから殴りつける。相手の左胸が思いっきりへこむ。 中の人間は間違いなく気絶する程の衝撃が入るはず。。 「まだまだ!!」 右を打ち込んだ反動を使い今度は左手を下からアッパーで打ち込む。 今度は相手の機体の鳩尾に入った左手を深く打ち込む。 『・・・何だ?この感触?』 一瞬動きに迷いが生まれたノーヴェを掴もうと両腕が動く。 「させないよ!!」 スバルが接近してくる。 「まだ早ぇよ!!」 言いながらノーヴェの右足が見事な軌跡を描き、回し蹴りが飛ぶ。 恐ろしいほどの衝撃が襲い掛かっているはず。それでもふら付きながら立つ、黒と赤の機体。 「なんて奴・・・」 「どんな構造してんだよ・・・」 ギンガが感嘆しノーヴェがあきれる。 「私が行くよ、ギン姉、ノーヴェ、離れて!!」 ギンガとノーヴェが離れ、目標と距離をとる。 それに換わって一直線に伸びるのは青い空の架け橋、スバルのウイングロード!! 「これで・・・、最後!!行くよ相棒!!」 <了解、ロードカートリッジ> 右手のリヴォルバーナックルのカートリッジを二発。 相手は安定せぬ機体を必死に安定させ左肩のグレネードランチャーが発射体勢に入る。 命中時の爆風で自身もダメージを受けるはずだが、もはや形振り構っていないらしい だが、そんなモノを気にもしないでさらに加速、突っ込む。 「リヴォルヴァー・・・」 さらにカートリッジをロード、魔力を高めて右の拳を振り上げる。 さらに至近まで近接した瞬間、相手はグレネードランチャーを発砲。 だが、それを殆ど一心同体のマッハキャリバーに身を任せて回避する。マッハキャリバーは スバルの動きを阻害しない最低限の動きを算出、実行。 「ナッコォォォーーーー!!」 正面から相手を吹っ飛ばす勢い・・・、実際に相手を吹き飛ばし、標的となった赤と黒の機体は 派手に地面を転がりながら壁に当って止まり、完全に機体をダウンさせる。 「やった?」 「スバル、まだ油断しない。ノーヴェ、相手の状況をスキャンして」 「・・・機体は停止してる、中のヤツまではわかんねぇ」 「了解。二人とも散開、警戒しつつ近づいて」 三人がゆっくりと近づく。 「再起動?気を付け・・・」 相手が立ち上がった。不気味なほどの執念のなせる業か、それとも何も感じることが出来ない者が扱っているのか。 「その機体でまだやるの?」 「どうしてもと言うのなら介錯して上げ・・・って、あれ?」 相手は片膝をついた。ゆっくりと倒れこむ。倒れこんだのと同時についていたセンサー類の 光も点滅を繰り返し、消えた。 「終わったぁ・・・」 ノーヴェがへたり込み、そして横になる。 「なのはさんの方も終わったみたいね」 「ノーヴェ、大丈夫?」 ギンガとスバルが心配して駆けつける。 「ごめんちょっと無理しすぎたみたい・・・」 「いいよ、ゆっくりして」 スバルはゆっくりと横になったノーヴェを楽な姿勢をとらせてやる。 ギンガはノーヴェの頭を撫でて妹の戦いを労ってやる。 「姉達・・・、ありがとう・・・」 ノーヴェが一言とポツリとつぶやく。 それを聞いたギンガとスバルは顔を見合わせると姉として最高の笑顔をノーヴェに返してやる 「ちょっと・・・ちょっとだけ、セルフチェックしてもいい?」 「いいよ、何かあってもお姉ちゃん達が守ってあげるから」 「・・・ごめん。セルフチェック開始、重要部品の破損箇所に対して自動修復モードを起動・・・」 そういうとノーヴェは目を閉じる。ひどく無防備な安らかな表情。 「寝ちゃったね」 「酷くやられちゃったみたいだからね。ゆっくり休ませてあげましょうか」 「うん!!」 スバルが横たわっていたノーヴェを持ち上げて背中におんぶしてやる。 「いい夢を見なさい・・・」 「・・・って、ええ?」 三人が落ち着いてた時、なのはの声が聞こえた。 二人が振り返るとなのはが潰した筈のもう一機がしぶとく立ち上がっていた。 「まだやる気なの?どんな精神構造してるのよ!!」 ギンガが率直な感想を漏らした。 「やっぱり時代劇とか見過ぎなの・・・」 ナカジマ三姉妹の名乗りと正面からの突撃を横目に見ながらもう一機の赤と黒の機体と向かい合う。 「・・・力を持ちすぎたもの」 「・・・へ?」 突然、相手がしゃべり始めた。野太い男の声で。 「・・・秩序を破壊するもの」 今度は若い女性の声。 「プログラムには不要だ・・・」 同時に完全に重なった男と女の声。よく聞くと雑音やノイズが混ざっている。 「あっちと男女二人組みって言うことね・・・。いいよ、どちらか分からないけど相手してあげる」 なのはは静かにレイジングハートを構え、相手に向ける。 「レイジングハート、ブラスタービット展開!!」 <展開します> 支援用にブラスタービットを二基、設定は火力支援。レイジングハートは射撃モードへ。 それに併せて同じく自身の周囲にアクセルシューターの射撃スフィアを展開。 「アクセルシューター、シュート!!」 先手を仕掛けたのはなのは。誘導弾のアクセルシューターで相手を包囲し、さらにブラスタービットで 相手の動きをけん制。自分は横に動き回り込む。 アクセルシューターの命中したことを示す明るい魔力光が照らす。 だが相手の機体はそんな事を気にも留めないかのように加速、残弾を回避し、誘導弾を連続発射。 なのはは自分を標的にした誘導弾を残さずアクセルシューターでたらい上げ、破片すら近づけない。 「射撃戦なら負けない!!」 カートリッジを一発リロード。回避した相手に向けて収束した魔力砲を発射。 しかし最小限の動きで回避され、背後の壁に着弾、爆発。 避けた相手は左肩のグレネードを連続発射、今度はなのはが回避する番。 「やるね!!」 一発目を回避。だが回避する機動を読んでいたのか二発目を正面から受ける。 <プロテクション> レイジングハートがオートでシールドを展開。この一人と一基のコンビの生み出す硬いシールドを 一撃で抜けるものは少ない。それが広く普及しているただの炸裂弾ならなおさら。 プロテクションの隙を突き高速で接近してくる機体。だがなのは落ち着いて対処する。 「レイジングハート、魔力刃を展開、接近戦を受けるよ!!」 射撃モードのレイジングハートの下部に銃剣のような魔力刃を着剣、槍のように-杖の筈だが-構えて 接近する相手に向かい合い、ついでアクセルシューターを展開。 袈裟懸けに下ろされる相手のサーベルをレイジングハートで相手の左二の腕を抑え、鍔迫り合いで受け止め、 アクセルシューターを後ろから回り込ませて相手を狙う。 今度は多数が命中、体制を崩す相手からアクセルフィンを使用して頭の上を取りカートリッジをリロード、 注ぎ込まれた魔力の薬莢は三発分。 「ディバイン、・・・バスター!!」 ブラスタービット収束された桃色の魔力砲が標的となった赤と黒の機体を包み込み、吹き飛ばす。 <命中、直撃です。大分至近でしたが大丈夫でしょうか?> 「大丈夫だよ、殺傷設定じゃないからちょっと痛いぐらいだから・・・。あっちも終わったみたいだしね」 そういいながらゆっくりと構えを解く。 <マスター!!> 突然頼りになる相棒が警告を出す。 「レイジングハート、どうかした・・・って、ええ!?」 もう一機がグレネードランチャーを向けていた。 「まだやる気なの?」 なのはが驚きながら再び構える。 『なのはさん、離れて!!』 突然通信が入る。なのははその言葉に反応、アクセルフィンで一気に上に飛ぶ。 次の瞬間、一条の光が通り過ぎた。それは直進し、グレネードランチャの砲身の中に入る。 瞬間、大音響と共に爆発が起こる。すぐ背中で起きた爆発にまた吹き飛ばされ、しこたま体を打ちつけながら 転がっていく機体。 「うわー・・・、絶対中の人って生きてないよね・・・」 スバルがもっともな感想をこぼす。 「エネさん?大丈夫?」 『何とか・・・生きてます・・・』 だがその瞬間、ピースフルウィッシュは機能を停止、強制的にエネを除装。 「・・・ごめんね、うまくつかってやれなかった・・・」 <気になさらずに> 「うん、修理代かかっちゃうね・・・」 <まったくです。あなたの治療費も> 「そうだね・・・。直ったら・・・、またお願いね」 <了解そのときはご協力いたします。システム待機モードへ移行> エネ自身の少なからず怪我を負っていた。ピースフルウィッシュもまた大破、全損に近い被害を受けていた。 「生きていたのね、よかった・・・」 ギンガは負傷したエネを気遣う。 「はい、気が付いたのは本当にさっきですけど・・・」 「体は大丈夫なの?」 「私よりこっちの方が・・・」 エネがドックタグ型の待機状態となったピースフルウィッシュを掌に乗せ示す。 「コアデバイスは基本的なコアさえ生きてれば修理は出来ますが、使用しているパーツによって お金はかかりますけど・・・」 「・・・よければ管理局で負担してあげようか?今回の発端はうちのスバルみたいなものだしねぇ・・・」 なのははノーヴェの世話をしているスバルの方を見る。良からぬ視線にスバルは気づかないふりをした。 「でもどこから出てきたんでしょう?エネさんのゲートから出てきたみたいですけど・・・」 スバルが違う話を持ち込む。 「そうだね、どこから出てきたんだろ?ギンガ、ちょっと見て来てくれる?」 「わかりました」 ギンガは一言言うとそのままブリッツキャリバーを転がし、ゲートを開放、奥へと向かった。 「何だ終わっちまったのか?」 入れ替わりで黄色の汎用魔導甲冑に身を包んだ地雷伍長がようやく合流した。 「遅すぎですよ、伍長・・・」 エネがぼやく。 「まあ、そっちの嬢ちゃんもヤツを相手に死ななかっただけ運が良かったと思っとけ。ヤツが伝説のレイブン、 アリーナの不死身のトップ・ナインボール、つまりハスラー・ワンだ」 その言葉を理解できたのはエネだけだった。 「あれがナインボール・・・?まさか・・・、何年も前に消えたと聞いてましたが・・・」 「まあ、生きてたのかどうか知らんが顔を拝んでみようか」 なのはとエネが倒した一機に近づいてハッチの開閉ノブに手をかけ、まわす。 「どんな顔をしてるか知らんが・・・、こいつはなんだ?」 除装した機体の中は空だった。 「スバル、そっちも開けてみて!!」 なのはの指示を受けスバルがノーヴェを負ぶったまま、接近、同じように開閉ノブをまわす。 「・・・なのはさん、こっちもです!!こっちも空っぽです!!」 「そんな・・・、確かに会話をしたよ?そうだよね、レイジングハート?」 <はい、間違いなく> 『なのはさん?』 「ギンガ?どうしたの?」 割り込みでなのはを呼ぶギンガの通信が入る、だが全員に受信できるようにしてある。 『先ほどは気づかなかったのですが、隠しゲートがありました。ここから出てきたんじゃないでしょうか?』 その通信にその場に居た全員が顔を見合わせた。 「ここ?」 「はい。よく見ると表面に滑ったような跡があります」 「どこに繋がってるんだろう?」 「こんな所にゲートがあったなんて・・・。伍長は知っていましたか?」 「いや、初めて知った。ここは古い施設らしが、大体調査は終わっていると聞いていた」 六人はギンガの発見した隠しゲートの前に立っていた。因みにノーヴェはまだセルフチェック中。 「古い施設なんですか?」 なのはが地雷伍長に聞き返す。 「ああ、話によると旧暦時代の施設らしい。新暦になってから付け足された施設もあるがな」 「へー・・・」 「セルフチェック終了。戦闘機動に制限つきで許可・・・」 「あ、ノーヴェ起きた?」 スバルの背中で寝ていた、セルフチェックを実施していたノーヴェが起きた。 「うん、大体大丈夫みたい・・・って、ハチマキ!!何してやがる!!」 どうやらおんぶされていたのが恥ずかしいらしい。顔を真っ赤にして暴れだす。 「わ、こら、そんなに暴れると・・・、わぁ!!」 暴れた表紙でノーヴェがスバルの背中から落ちる。だが落ちる前にギンガがノーヴェの体をキャッチ、 ゆっくりと下ろしてやる。 「もー、さっきはちゃんと『スバル姉』って呼んでくれたのに・・・」 「呼んでねぇよ!!」 「ちゃんと言ったよねー、マッハキャリバー?」 <はい、確かに。記録もちゃんととってあります> 「いや、あれはその・・・」 ノーヴェが顔を真っ赤にして俯く。 「ノーヴェ、体は大丈夫?」 「はい、制限付の戦闘機動でしたら可能です」 一応は指揮官であるなのはが確認する。 「あまり無理したら駄目よ?」 「うん、ギンガ姉・・・」 やっぱりギンガ姉は優しいな・・・。ノーヴェはそう思った。 「予定外の行動だけど・・・、とりあえず潜ってみようか?いくのは私とスバルとギンガで行こう。 ノーヴェはここで待ってるほうがいいね?」 なのはが決定を下す。 「そんな・・・、あたしはまだやれるって!!」 「ノーヴェ、指揮官の決定には従いなさい。今はなのはさんが指揮官なのよ?」 「・・・ギンガ姉、でも本当に大丈夫だから・・・、足手纏いにはならないから!!」 「伍長はここで誰も入らないようにしておいていただけますか?」 「それでこれは出るんだろうな?」 地雷伍長が親指と人差し指をあわせて丸いサインを作る。 「一定額を捜査協力費でお支払いできるでしょう。ですが後払いですよ?」 指揮官役ののなのはが一応契約を取りまとめる。 「構わんよ、だが期待はするな。俺はなんて言ったってアリーナの万年最下位だからな」 そういうと豪快に笑った。 『『『『・・・万年最下位なのにどうやって機体を維持したり生活してるんだろ?』』』』 エネ以外の四人は同じような疑問を頭に思い浮かべた・・・。だがそれを口に出すほど野暮ではなかった。 「あの私は・・・?」 「エネさんは無理しない方がいいわ。控え室に戻って休んでいたほうがいいよ」 「そうだよ。修理費とかは大丈夫、エネさんの分もちゃんと払ってあげる。・・・スバルのお給料からね」 「そんなぁ・・・」 「自業自得だろ・・・。わたしはそれで死にかけたんだからな・・・」 ギンガがエネを心配し、なのはが報酬を請負い、ノーヴェが恨めがましく言う。 「先頭はギンガ、マークスマンはスバル、次に私。ノーヴェは後衛で警戒。前進速度はそんなに速くなくて いいよ。壁とかに隠されている通路とかに注意。ノーヴェはレイジングハートと キャリバーズと直接リンクしてマッピングしておいて。みんな準備は良い?」 「「「はい!!」」」 三人が各々の利き腕を突き上げ返事をする。本当の姉妹ではないはずだが本当に良く似ている三姉妹である。 「よし、じゃあみんな行こうか」 なのはがレイジングハートを隠し通路にむけた。それを合図にギンガを先頭に暗い通路内に入る。 次にスバルが通路に入り自分の番になった時、後ろに立つノーヴェを振り返る。 「本当に大丈夫?」 「大丈夫です、戦闘機人がこんな事で倒れません」 「なにかあったら…、チンクちゃんやセインちゃんが心配するよ?冷たい事ばかり言ってるけどトーレさんも…」 「はい…、でも大丈夫です。戦って倒れたなら戦闘機人の本望だって、きっとみんな言ってくれますから…」 そういうとノーヴェは笑った。 『普段の生活の中で番感情表現が豊かな娘に育ったんだね。ナカジマ家の教育がいいのかな?』 自身の弟子とも言うべき子は相変わらず感情の起伏が表に出ない娘のままだった。 <マスター、彼女のポテンシャルは落ちています。やはり置いて行くべきでは?> 『彼女なら大丈夫だよ、レイジングハート。でも目を離さないであげて』 <お任せください、マスター> 「じゃあ行くよ。しっかり付いてきてね」 アクセルフィンを展開、一気に加速して先発した二人を追う。 「遅れるかよ…!!」 ノーヴェは三人の後を追う。ジェットエッジを加速させ通路の闇へと消えていった。 「さて、じゃ仕事をするとしますか・・・」 四人が通路に消えた後、地雷伍長がぼやき機体を着座させる。 「仕事って・・・、なんで座ってるんですか、伍長?」 「まあ仕事はここで監視してろって事だろ?それに今、この施設に入ってこれるやつは居ると思うか?」 「それはそうですが・・・」 今現在、シャッターが施設の通路の大半を閉鎖している。今頃来たレイヴンは必死に開けようと苦労しているのだろう。 「分かったらお前もとっとと控え室に戻って応急処置して休んでおけ」 「そうですね・・・、じゃあいったん戻ります」 エネが踵を返して戻る。 「ああ、ちょっと待て」 地雷伍長が呼び止める。 「入っていったあいつらが帰ってきた時の為に茶とか軽食を用意しておいてやれ。それと・・・」 一瞬区切って考える地雷伍長。 「誰か来たら軽食と魔法瓶に入れたコーヒーを俺のところに持って来させてくれ。ただ待つのは勘弁だ」 それを聞いて了解の返事のつもりか崩れた敬礼と笑顔を返すとエネはそのまま通路を歩いていった。 歩いていったのを確認して地雷伍長は頭部ハッチを開放腰部の雑具箱から器用にタバコとライターを取り出し、 一本吸い始め、紫煙を吐き出す。 「まさかとは思うが・・・、こいつは本部か例の秘密工場への隠し通路じゃなかろうな?」 地雷伍長の呟きを聞いたモノは彼のデンジャーマイン以外、誰も居なかった。 戻る 目次へ 次へ
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『スカリエッティ立ち上がったー! しかし顔面が血まみれだー!』 「こ…これは…血…?」 先程鉄柱に打ち付けられたせいもあってスカリエッティの顔面からは大量の血が 流れ出ていたのだが…スカリエッティはそれに対し信じられないと言った顔をしていた。 「な…何故血が…何故血が流れるのだ…。」 「そりゃ~攻撃を受ければ傷付いて血が出るのは当然じゃないか!」 万太郎も呆れていた。万太郎の過去の戦績は確かに超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝の ケビンマスク戦を除いて全て勝ち星を上げている。だがどれも苦しい戦いだった。血を一滴も 流さずに勝利出来た試合など一つも無い。むしろ全身傷だらけ、血だらけになる試合もあった。 だからこそ今更血が出たくらいで驚かなくなっていたのだが…元々研究者であり、 改造によって自身の肉体を強化したスカリエッティは自らの流血に対する耐性が無かったのだろう。 「何故だ…何故だ…私は究極の肉体を手に入れたはずだ…。どんな攻撃にも耐えうる 強靭な肉体を作り上げたはずだ…なのに何故血が出る…? 何故だ…何故だ… 何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 『あーっとスカリエッティが物凄い形相となったー!』 スカリエッティは激怒した。自らの肉体に自身を持っていただけに… その肉体を流血させた万太郎が許せなかったのである。 「きぃぃぃさまぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「んぐぁ!!」 次の瞬間スカリエッティの鉄拳が万太郎の腹部に直撃し、万太郎が勢い良く吹っ飛んだ。 だが、それもロープに引っかかってその反動で勢い良く戻って来るのだが… 「死ぬぇぇぇぇぇ!!」 その戻って来た万太郎にスカリエッティの蹴りが炸裂する。そしてまた吹っ飛んだ後で ロープに引っかかって反動で戻って来た後でまた殴り飛ばされたり蹴り飛ばされたり… その繰り返しが始まってしまった。 『あーっとスカリエッティの猛攻が始まったー! 万太郎手も脚も出ないー!』 「やばい! やばいんじゃないのこれー!」 「うん! パターンが入ってしまった!」 格闘技にはいまいち詳しくないなのはとユーノでも万太郎がピンチだと言う事は理解出来た。 如何に人間を遥かに超越した耐久力を持つ超人でもアレだけの猛攻を受けて無事でいられるワケが無い。 だが…やはり万太郎は並の超人では無かった。 「あ…あんまり調子に乗っちゃダメだよ!」 ロープの反動で戻って来た所をまたもスカリエッティの追い討ちを受ける万太郎だが… 次の瞬間万太郎が肉のカーテンの体勢を取る事によってスカリエッティの拳を弾き返していた。 『あーっと万太郎! 今度は肉のカーテンで逆にスカリエッティの攻撃を弾き返したー!』 「うおおおお!」 「今度は僕の番だ! マンタロー飛び付き腕ひしぎ十字固め!!」 万太郎はバランスを崩したスカリエッティの腕に飛び付いて腕ひしぎ十字固めを仕掛けた。 『出た! 万太郎の腕ひしぎ十字固めー!』 『パワーで劣る分はテクニックでカバーしようと言う事ですね?』 「う…うおあああああ!!」 「このままお前の腕を圧し折ってやる!!」 スカリエッティは流血に対してのみならず、関節技に対する耐性も低かった。 無理も無い。敵との戦いや自ら鍛えると言う方法では無く、改造によって自らを強くしたのだ。 敵から関節技を直接受けた事が無いからこそ意外にも関節技に対する耐性が低かったのである。 「確かにお前のパワーは凄いよ! 超人強度に換算すれば1000万パワーにも達してる。 でも…テクニックに関してはてんでド素人だ!!」 「うおああああああ!!」 万太郎の超人強度は93万パワー。しかしそれでも万太郎は700万パワーの ザ・コンステレーションや1200万のボルトマン、1000万のリボーンアシュラマンなど 自身の何倍もの超人強度の相手と戦い、辛くも勝利を収めて来た。 その万太郎が冷静にスカリエッティの実力を考えた場合、上記の三人に比べて 見劣りする物を感じていた。何故なら上記の三人はただ超人強度の高さから来る 強大なパワーだけでは無く、それぞれのテクニックと言う物を持っていた。 特にリボーンアシュラマンなど、ジェネラルストーンによって身体は20代に若返っていたが、 実際は50歳以上の高齢であり、血気盛んな若々しい肉体と数々の戦いを経験したベテラン超人の 頭脳と精神を併せ持つと言う実質的な実力は1000万さえ遥かに超越した超人だった。 しかし万太郎は激闘の末、死の一歩手前まで追い込まれながらも何とかそのリボーンアシュラマンにも 勝利して来たのである。その時の苦しみに比べれば…もはやパワーだけのスカリエッティなど 怖くなくなっていた。 「ふざけるなぁぁぁ!! 貴様の様な生まれ付いての超人に私の考えが分かってたまるかぁ!!」 『あーっとスカリエッティ! 腕に組み付かれたまま万太郎をキャンバスに叩き付けようとするー!』 スカリエッティはパワーに任せて強引に万太郎をキャンバスに打ち付けようとするが… 「なんの! マッスルアーマー!!」 次の瞬間万太郎の背筋が盛り上がり、その弾力によって受身を取る事でキャンバスに 打ち付けられた衝撃を吸収し、さらにバウンドの勢いで逆にスカリエッティを後頭部から キャンバスに落としていたのである。 「うおぁぁぁ!!」 『万太郎の返し技を受けて後頭部を打ったスカリエッティ! かなり痛そうだー!』 「ほらね! やっぱりあんたはド素人だ! 受身もまるで出来てないじゃないか!」 「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」 頭をフラフラさせながらも怒りに任せて起き上がったスカリエッティは 万太郎に対し連続でパンチを放つ。しかし力任せな大振りのパンチは万太郎に一発も当たらない。 『スカリエッティのパンチの連射砲だー! しかし万太郎には当たらないー!』 「何故だ! 何故当たらん!?」 「そんな力任せなパンチなんか連発しちゃったら余計に体力消耗しちゃうだけだよー! 少しは力抜いてあげれば~?」 「うるさいだまれぇぇぇ!!」 万太郎もかつて力任せな攻撃が脱力した相手に破られて苦戦した事があったからこそ その様な事が言えた。スカリエッティが全身に無駄に力を込めて殴りかかって来るのに対し、 万太郎は全身の力を抜いて柔らかく柔軟性に富ませてスカリエッティのパンチをかわしていく。 かの鉄人「ルー・テーズ」も力を込めれば鋼の様に堅く、逆に力を抜けばゴムの様に しなやかな筋肉をしていたと言う。今の万太郎はそれを体言していたのである。 『なおもスカリエッティのラッシュが続くが万太郎には当たらないー!』 「何で何でだー!? 何であの豚男があんなに強いんだー!?」 「私達が何度袋叩きにしたか分からん奴なのに…。」 スカリエッティを観客席から応戦する戦闘機人達にはこういう状況でこそ真の 強さ…渋さを発揮する万太郎の強さが理解出来なかった。 「それじゃあ今度は僕の番だ!」 『今度は万太郎のパンチがスカリエッティの顔面に炸裂したー!』 万太郎のパンチがスカリエッティの顔面に連続で炸裂しスカリエッティは怯んだ。 ただでさえ万太郎に一発も当たらないと言うのに逆に万太郎に一発食らわされたのでは 身体的なダメージ以上に精神的なダメージが大きかった。 ラフファイターは攻撃を受けた事が無い為に逆にラフファイトに弱い。 これは万太郎が火事場のクソ力チャレンジの最終戦で戦ったノーリスペクトの一人、 ボーン・コールド戦で学んだ事であった。 「ブ…豚男が偉そうな口を叩くなぁぁぁぁ!!」 スカリエッティは万太郎の顔面を再び掴み上げた。そして何度も何度も振り回し… 「これで時空の彼方まで吹っ飛びやがれぇぇぇぇ!!」 『あっとスカリエッティ! 万太郎を凄い勢いで投げ飛ばしたー!』 『これは場外は必至ですよー!』 軽量な万太郎はまるで豪腕投手に投げられた野球ボールの様に吹っ飛んで行くが、そこでロープを掴む。 しかしそのロープでも勢いは殺せずに伸びる伸びる。もう観客席を飛び越えて聖王のゆりかごの 外にさえ出てしまっている。そこでやっとロープの伸びが止まっていたのだが、 万太郎はなおもロープを掴んだままだった。 「ならば…お前に本当の僕の力を見せてやる!! 火事場の…クソ力ぁぁぁぁぁ!!」 次の瞬間万太郎の額に赤く燃え上がる「肉」の文字が現れ、万太郎の全身が眩い オーラに包まれた。これこそ万太郎が内包するオーバーブースト「火事場のクソ力」なのである。 普段93万パワーしか無い万太郎もこの火事場のクソ力発動時にはパワーが何倍にもなる。 万太郎の父スグルも瞬間的に7000万ものパワーを発揮するクソ力を持ち、 神にさえ恐れられて潰されそうになった程の恐ろしい力なのだ。 『出たぁぁ! 万太郎の火事場のクソ力がついに発動したー!』 『今まで様々な奇跡の逆転ファイトを生み出して来た火事場のクソ力が今度は どんな奇跡を見せてくれるのでしょうかー! これは女房を質に入れても見逃せませんね!』 そして万太郎は何百メートルにも渡って伸びきったロープの反動を利用して まるで弓から強引に放たれた矢の様にスカリエッティ目掛けて突っ込んでいた。 前へ 目次へ 次へ
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後に闇の書事件と呼ばれる事件が起きてから、しばらく経ったころ、 「はやてちゃんが意識不明!?」 病院からの電話に、シャマルは呆然となる。金髪を肩のあたりで切りそろえた二十歳くらいの女性だ。受話器を落とさなかったのは僥倖だろう。シャマルはどうにか受話器を置くと、その場に崩れ落ちる。 居間にいて声が聞こえたヴィータ、シグナム、ザフィーラも顔色を変える。 「おい、はやてが一体どうしたんだ?」 「突然、病院で昏睡状態に陥って、原因不明だって・・・・・・」 「魔力の不足か」 シグナムが唇を噛み締める。年はシャマルと同じくらい。髪をポニーテールにした凛々しい雰囲気の女性だ。 手にしたものの願いを叶える闇の書。しかし、莫大な魔力を必要とする闇の書は、魔力の収集を行わなかった彼らの主、八神はやてを確実に蝕んでいる。 進行を抑えるべく、シグナムたちは連日、異界に飛んで魔力を収集しているが、はやての容態は悪化する一方だ。このままでは命にかかわる。 「やっぱり、こんなちんたらしたやり方じゃ、間に合わねぇよ!」 ヴィータが苛立ちまぎれに机を叩く。長い髪を二つの三つ編みにして垂らしている、きつい目つきの少女だ。年は六、七歳か。 はやてが悲しまないように、ヴィータたちは相手の命を奪わず、魔力の元、リンカーコアのみを奪取する方法を取ってきた。しかし、その方法も限界に来ていた。 「落ち着け、ヴィータ。主が悲しまないよう最善を尽くす。それが我らの誓いではないか」 床に伏せていた蒼い狼、ザフィーラがヴィータを諭す。 「でも、このままじゃ、はやてが・・・・・・」 「手がないわけじゃないわ」 シャマルが静かに言った。 「どういうことだ? 詳しく聞かせろ」 「この前、時空のはるか彼方に、膨大な魔力反応を感じた。もし、その魔力を手に入れられれば、はやてちゃんを助けられるかもしれない」 「何だよ。そんな方法があるなら早く言えよ」 ヴィータは胸を撫で下ろした。しかし、シャマルの顔は険しいままだ。 「どうした?」 シグナムが促すと、シャマルは重々しく口を開いた。 「簡単に行ける場所じゃない。たぶん往復だけで丸一日かかる。まして、その先にいるのはこれまで観測したこともない魔力の持ち主。全員でなければ、絶対に負ける。いいえ、全員で行っても勝てるかどうか・・・・・・」 先日襲撃した時空管理局の少女たちも、相当な魔力の持ち主だったが、今回はさらに桁が違う。まるで神か悪魔の居場所でも突き止めたかのようだ。 「相手が誰であろうと関係ない」 シグナムが剣型デバイス、レヴァンティンを取り出す。 「主を救えるなら、たとえ神だろうと悪魔だろうと倒してみせる」 全員が力強く頷く。彼らの心に迷いはない。 彼らの名はヴォルケンリッター。闇の書の守護騎士たちだ。 魔力で作られた道具でしかなかった彼らに、人の心と温もりを教えてくれた八神はやて。彼女を救えるなら、どんな罰だって甘んじて受ける。 「決まりだな」 「こうなると、はやてちゃんが昏睡状態なのは不幸中の幸いかもね」 「ああ、余計な心配をかけずにすむ」 「ならば、一刻も早く出発しよう。そして、一刻も早く戻らねば」 ザフィーラが立ち上がった。その姿が、狼の耳と尻尾を生やした浅黒い肌をした男に変わる。 万が一、目を覚ました時のために、石田医師に伝言を頼む。石田医師からは、こんな時にはやての傍からいなくなるなんてと文句を言われたが、仕事の都合でどうしようもないと押し切った。 「では、行くぞ!」 シグナムの号令の元、騎士服に着替えたヴィータ、シャマル、ザフィーラが転移を始める。 その頃、時空監理局所属アースラ艦内では、 「敵が移動を開始した?」 「はい。座標xに向けて移動中です」 「かなりの距離ね」 「もしかしたら、そこに闇の書があるのでは?」 黒衣の少年、クロノが母親であるリンディ艦長に向けて言う。 「その可能性は高いわね。収集した魔力を主の元に届けるつもりかも。そうなると、なのはさんやフェイトの協力は不可欠ね」 アースラは、なのはたちのいる時空に進路を取った。 ヴィータたちが降り立ったのは、月光が降り注ぐ広い草原だった。 ただし、その場所には無数の化け物が巣食っていた。 「おい!」 狒々(ひひ)や牛、草原を埋め尽くす化け物の群れに、ヴィータが思わず声を上げる。 化け物すべてが桁違いの魔力を放出している。たやすく倒せる相手ではない。 「ほう。面白い獲物がかかったものだ」 化け物たちの中心にいる巨大な牛が渋い重低音で言う。魔力の量から、そいつが親玉なのだろう。 牛が吠えると、その姿が変化していく。牛の角はそのままに、体は虎に、背からは巨大な翼が生えてくる。 「おお、窮奇様が……」 「真の姿を現された」 化け物たちがどよめく。 しかし、シグナムたちを驚愕させたのはそこではない。本性を現すやいなや、化け物から凶悪な魔力が放出されたのだ。 「・・・・・・嘘」 シャマルの足から力が抜け、その場に膝をつく。 「まさか、ここまでとは」 シグナムたちも武器を構えているが、顔から血の気が引いている。話には聞いていたが、まるで神か悪魔のような力だ。闇の書以外でこれだけの力を持った存在がいるなど信じられない。 (今の私たちで勝てるか?) 歴戦の勇士である彼らでさえ、いや、だからこそ勝機のなさを自覚せざるをえない。 窮奇と呼ばれた化け物が喉の奥で笑う。 「見たところ、人間ではないな。なかなか強い力を持っている。貴様らを食えば、この傷も少しは癒えるかな?」 窮奇の首には骨まで達する深い裂傷があった。普通ならとっくに死んでいるような大怪我だ。 「手負いでこの力か」 「おもしれぇ! てめえの力、そっくりいただいてやる」 ヴィータが金槌型デバイス、グラーフアイゼンを振り回して突撃する。 「ふん」 魔力の放射だけで、ヴィータは軽々と弾き飛ばされる。それを合図に一斉に化け物たちが襲ってきた。 主はやての為に不殺を貫いてきた彼らだが、これほど邪悪な存在に手加減する理由はない。 無数の化け物たちを、レヴァンティンが切り伏せ、グラーフアイゼンが叩き潰す。それでも倒して切れない相手をザフィーラが退ける。倒した敵からリンカーコアを摘出しながら、シャマルが傷を負った仲間たちを回復していく。 必死に応戦するが、すべてが手練れの上、数も多い。防戦一方だった。 苦戦する守護騎士たちを、窮奇がいやらしい笑みを浮かべて眺めている。その気になればいつでも始末できるのに、シグナムたちが傷つきもがき苦しむさまを楽しんでいるのだ。 その時、 「万魔拱服!」 轟く声と魔力が、シグナムたちを取り囲む化け物たちを一掃する。 「ちっ!」 思いがけない新たな敵の出現に、窮奇や他の配下たちが逃げていく。 「・・・・・・助かった?」 ヴィータがほっと息をつき、ザフィーラが狼の姿に戻る。 「えっと・・・・・・大丈夫?」 声をかけてきたのは、不思議な服を着た少年だった。赤い古めかしい衣に、長い髪を後頭部でまとめている。その肩には、白いウサギのような獣を乗せている。 「誰だ、てめえ?」 喧嘩腰のヴィータに、少年は答えた。 「俺は安倍昌浩。陰陽師だ」 「ま、半人前だがね。晴明の孫」 「孫言うな!」 肩の獣が茶化すように言う。それに少年は半眼で唸る。 「そのウサギ、喋るのか?」 「うん。ウサギじゃないけどね。物の怪のもっくんって言うんだ」 「俺は物の怪と違う」 「おんみょうじ? もののけ?」 聞いたことのない単語の連続に、ヴィータが胡乱げに眉をひそめる。一方、昌浩も怪訝な表情だ。 「君たちは一体? かなりの霊力を持っているようだけど・・・・・・」 昌浩たちは内裏を炎上させた妖怪を追っていた。妖怪の主を突き止めたと思ったら、変な風体の女たちが戦っていた。状況を飲み込めずとも仕方ない。 シグナムが代表して、前に出た。この世界の常識がわからない以上、この少年を頼りにする他はない。 「私の名はシグナム。この地に来たら、突然、化け物に襲われて困っていたところだ。助けてくれて感謝する。彼女がシャマル。こちらの狼の姿をしているのがザフィーラだ」 シグナムたちは昌浩の見たこともない服装をしていた。特にシグナムの服はすらりと伸びた足が裾から見えて、昌浩は目のやり場に困る。 「し、しぐなむ? しゃまる? ざふ? ……変わった名前だね」 昌浩が舌をかみそうな様子で名前を呼ぶ。ヴィータがそれを鼻で笑う。 「はっ! てめえの名前だって変わってるだろうが。昌浩だっけか?」 「こら、名前は一番身近い呪なんだよ。馬鹿にしちゃいけない。それで、君の名前は?」 「ヴィータだ」 「びた? なんか濡れ雑巾が落ちたような名前だね」 「てめえ! 言ってることが違うじゃねぇか!」 カッとなったヴィータがつかみかかろうとするのを、シグナムが押しとどめる。 「すまない。われわれはここに着たばかりで、勝手がわからないのだ。出来れば説明してもらえると助ける」 「うーん。どうしようか、もっくん」 「さてな。晴明に聞いてみたらどうだ?」 「構わんよ。家に来てもらいなさい」 突然の声に、昌浩たちはぎょっとなる。 振り返ると、白い衣をまとった長身の青年が、穏やかな笑みをたたえて立っていた。 「せ、晴明!」 「え? あれ、じい様なの?」 もっくんと昌浩が目を丸くする。 「遠方より客来ると占いに出ていたが、いやはや、ここまで特殊とは。この晴明も恐れ入った」 晴明は意味ありげに笑みを浮かべる。 「では、私は客をもてなす用意をする。昌浩、案内は任せたぞ」 それだけ告げると、晴明は風のように姿を消す。 「じゃあ、ついてきて」 シグナムたちは昌浩に連れられて、彼の家に向かった。時刻が遅いせいか、それとも文明がそれほど進んでいないのか、明かりの類はほとんどない。月と星の光だけが木造の家屋を照らしている。 「似てる」 道中、町並みを見渡していたシャマルがポツリと呟く。それにシグナムが反応した。 「似てる? 何にだ?」 「この道なんだけど、前にテレビで見た京都のものとそっくり」 「言われてみれば、昌浩殿の服装も時代劇に出てきたものによく似ているな」 「何だよ。タイムスリップしたとでも言いたいのか?」 ヴィータが目を細める。 「よく似た別世界なのだろうが、その可能性もある。思い込みは危険だが、手がかりがあるのはありがたい」 昌浩は裏表のない性格のようだが、後から出てきたあの青年はどうも油断がならない。下手をすると、奴にいいように使われてしまう危険があった。自分たちの判断材料が欲しい。 やがて昌浩の家にたどり着いた。木造で一階しかないが、敷地面積が半端ではない。その広さにヴィータは唖然となった。 「お前、もしかしてすごい金持ちなのか?」 「違うよ。家が広いだけ。俺の家より広くて豪華な家なんて、たくさんある」 昌浩が苦笑する。 一行は家に入り、廊下を進む。しかし、進むにつれて、昌浩の顔が険しくなっていく。 「どうした?」 「別に。ここだよ。じい様入ります」 シグナムたちは奥にある一室に入った。そこには灯火の光に照らされて、顔に深いしわの刻まれた白髪の老人が座っていた。 てっきりあの青年が出迎えると思っていたシグナムたちは拍子抜けした。 「誰だよ。この爺は」 「さっき会った人だよ。俺のじい様」 昌浩がヴィータに憮然と告げる。 「馬鹿いうな。ぜんぜん違うじゃねえか」 「つまりこういうことじゃよ」 老人が目を閉じると、その体からあの青年が浮かび出てくる。 「これは離魂の術といってな、魂だけを遠くに飛ばす術じゃ。魂の姿だから、わしの全盛期の姿になれる」 シグナムは愕然とした。こんな魔法は知らないし、それを行うのにどれだけの魔力を使うか、見当もつかない。 (もし、この老人から魔力を奪えれば・・・・・・) シグナムの手がピクリと動いた。 その瞬間、夜色の外套をまとった男が突然現れた。 「うわっ。どっから現れた!?」 男は無言でシグナムに視線を送る。あの刹那に漏れた殺気を感じ取られたらしい。 「六合(りくごう)。下がりなさい」 晴明に言われて、外套の男は姿を消す。 「失礼。彼らは十二神将といって、わしの式神・・・・・・・そうさな、そなたたちと同じような存在といえば、お分かりかな」 老人は手にした扇をシグナムたちに向けてにやりと笑う。 (我ら守護騎士と同じ……つまり人ではないということか) どうやら正体をほぼ看破されているらしい。ますます油断がならないと気を引き締める。 「彼らは隠形(おんぎょう)といって、あのように姿を自在に消せる」 「便利なものだな」 「えっ? 人じゃないの?」 昌浩が驚いて、まじまじとヴィータたちを見つめる。 「じろじろ見るんじゃねぇ」 ヴィータが昌浩の足を踏みつける。足を抑えて飛び跳ねる昌浩を、晴明が大げさなしぐさで嘆く。 「おお、昌浩よ。そんなことにも気がつかないとは」 「そりゃ、衣装は変わってるなとは思いましたけど、だって人間と寸分違わないじゃないですか」 ザフィーラが普通の動物ではないことはわかっていたが、他は人間だと信じ込んでいた。 「己の未熟を棚に上げて、言い訳とは。わしの教えが悪かったのか。じい様は悲しいぞ」 「はいはい。すいませんでした!」 昌浩が不機嫌に怒鳴る。晴明はわざとらしい泣き真似をやめると、シグナムたちに向き直った。 「では、そちらの事情からお話いただけるかな?」 シグナムは慎重に言葉を選びながら説明した。こちらが人間ではないとわかっているなら、都合がいい。主が命の危機にあり、救うためには大量の魔力がいる。闇の書や詳しい話は省いたが、嘘は言っていない。 相手は百戦錬磨の狸爺だ。下手な嘘はすぐに見抜かれるだろう。 「魔力?」 昌浩が疑問を口にする。それにはむしろシグナムが困惑した。 「昌浩殿もあの化け物たちも使っていたではないか」 「ああ、霊力のことか。化け物が使っていたのは、妖力だけど」 「どうやら、こいつらはすべて一括りに魔力と呼んでいるようだな」 もっくんが納得したように頷く。 シグナムは話を元に戻した。 「あの窮奇とかいう化け物の魔力を奪えれば、主は助かるかもしれない」 「なるほど。窮奇か。大陸から渡ってきた妖怪。それもかなりの大物だな」 「こちらの事情は説明した。次はそちらの番だ」 晴明の話は聞いたことのない単語が多く、シグナムたちは理解に苦労した。 ようするに、晴明はこの国の政府の要職にあり、その政府で一番偉い人の娘があの化け物に命を狙われている。それを退治しようとしているのが、晴明と昌浩だった。実際に動いているのは昌浩だが。 「窮奇の目的は力のあるものを喰らって、傷を癒すこと。かの大妖怪が完全な状態になれば、どんな災厄を招くか。我々の目的はどうやら同じのようだ。協力していただけませんかな?」 晴明が提案する。 シグナムたちはすばやく視線で意見を交わす。窮奇を退治するには、自分たちだけでは心もとない。晴明も昌浩もあの十二神将もかなりの実力者だ。これだけ心強い援軍を得られるなら、願ってもない。 「こちらからもぜひお願いする」 (それにもし化け物退治に失敗しても、彼らの魔力を奪うという選択肢もできるしな) シグナムの心に苦いものが広がる。そんな裏切りをすれば、主はやてはきっと悲しむだろう。だが、彼女を救う手が他にないのであれば、シグナムはその手を汚すことにためらいはない。 「決まりですな。では、今夜は我が家に泊まるといい。私の客人ということで、部屋は用意してあります。それにその衣装も目立ちすぎますな。代わりの物を用意しましょう。それと気をつけていただきたいのですが、ここでは妙齢の女性が素顔をさらして歩くことはあまりない。出歩く時はそれを忘れないで下され」 「わかりました。何から何まで世話になって申し訳ない」 シグナムが頭を下げる。ますます古い日本の風習にそっくりだ。それを参考に行動すれば、そこまで問題はなさそうだ。 「いえいえ。お安い御用ですぞ。では、今宵はこれまでということで」 シグナムたちは別の部屋に案内された。そこにはすでに三人分の布団が敷いてあった。薄い衣を重ねて掛け布団にしている。さすがにザフィーラの分はないようだ。 ヴィータとシャマルは横になると、すぐに寝入ってしまった。 疲れていたのだろう。特にシャマルは本来後方支援なのに、前線で戦ったのだ。無理もない。 今日だけで闇の書のページがかなり埋まった。窮奇を倒せば、もしかしたら、闇の書の完成すら夢ではないかもしれない。 晴明が裏切るとは思えないが、念のため、シグナムとザフィーラが交代で見張りにつく。 夜は静かにふけて行った。 目次へ 次へ
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今から150年以上前…あらゆる次元世界に戦いが蔓延していた頃、ミッドチルダに三人の魔導師が存在した。 三人の魔導師は、ミッドチルダ南西部のとある地方において謎の石を発見する。 その石は真っ二つに割れたかのように欠けていて、外見はただの石であった。 …しかし石の内部には謎のエネルギーが残留しており、更にそのエネルギーを解析すると、 エネルギー内には魔法技術や質量兵器技術、果ては様々な世界の歴史など膨大な知識が保存されており、 中には伝説級のアルハザードの技術や情報、神話級の魔法技術や情報が蓄積されていたのである。 …これらの情報を知った三人の魔導師は、ある野望を抱く事となる。 この情報と技術を応用・併用すれば、この次元世界を纏め上げ事すら不可能ではない。 それは正に神の所業、つまり我々は神になる事が出来る… 三人の魔導師は互いに協力し合い、神になる為の道を歩み進む事となった… リリカルプロファイル 第二十八話 角笛 …その後、三人の魔導師は石の情報を基に次元世界を纏め上げ平定、 75年後にミッドチルダに時空管理局を設立し、三人は最高評議会と名を変え表舞台から姿を消す。 設立から月日が経ち、石を中心とした巨大なデータベースを保有した超巨大次元船を設立、 その後次元船は本局と名を変えデータベースもまた無限書庫と名を変え現在に至るのであった。 そして現在…ミッドチルダに東部の森に存在する洞穴の前に三人の人影が存在する。 ヴェロッサ、シャッハ、アリューゼである、彼等はなのは達がセラフィックゲートに向かっている頃 スカリエッティの居場所兼ラボである聖王のゆりかごへの潜入と魔法技術のルーンを解除の為に、 ティアナによって齎されたディスクの情報を頼りに此処へと赴いたのである。 「…しかし来たのはいいが、どうやって潜入する?ルーンって奴で存在次元を曲げられてんだろ?」 「勿論、此方にもそれなりの用意はあるさ」 アリューゼの疑問にヴェロッサは答えると、懐から液体が入った二つの瓶を取り出す。 ルシッドポーション、これは無限書庫に記載されていたルーンの情報を基に、一時的に存在次元をずらし透明にするものであるという。 つまりはルーンが起動している時と同じ現象を作り出す代物なのだが、効果は五分程度であるのが弱点であると付け加える。 「でも五分もあれば僕のレアスキルで潜入することは可能だからね」 そう言うとヴェロッサの下に半透明の猟犬が多数姿を現す、ウンエントリヒ・ヤークトと呼ばれるヴェロッサの魔力を用いて 目視や魔力深査に対し高いステルス性を誇る猟犬を作り出すレアスキルであり、 更にコンピュータにアクセスしての情報収集や、障害物を通り抜けたりする事も出来るのである。 そして今回はルシッドポーションを猟犬に振りかけることで、効果を与え侵入を可能とするものであった。 「でも…君が潜入するとはねぇ」 「何だ?まだ文句があんのか?」 …本来アリューゼはこのような任務は得意ではない、寧ろシャッハの方が能力的に適している。 しかし今回はアリューゼたっての希望でヴェロッサ達に嘆願し、シャッハに代わって潜入する事になったのだ。 「まぁいいさ、とりあえずがんばって」 ヴェロッサは一つ挨拶を交わすと開始時間となり、アリューゼは受け取った瓶の中身を飲み干し ヴェロッサは猟犬達に振りかけると徐々に姿を消し見えなくなる。 だが本人達は消えた事が分からないようなのであるが、五分しか保たない為に急いで洞穴を通る。 …比較的長い洞穴を駆け足で抜けると広い空洞に当たり、中には巨大な船の姿がある。 「これが…ゆりかごか……」 〔惚けてる時間はないよ〕 猟犬からヴェロッサの窘める言葉が響く中で、入り口らしき場所を見つけると 猟犬は早速ハッキングを仕掛け、直ぐに扉を開けると飛び込む形で乗り込み直ぐ様扉を閉める。 「大丈夫なのか?」 〔うん、痕跡は残していないからね〕 直ぐにバレるようじゃ査察官は務まらないと猟犬から笑い声が響く中で、 ヴェロッサは直ぐに真剣な口調へと変え此処から先は二手に別れようと提案する。 自分は引き続きルーンの解除とスカリエッティの居場所の詮索 アリューゼはアリューゼが望む事をしてくれと説明を終える。 「気付いていたのか……まさか!てめぇ思考捜査を!?」 「…君は簡単に顔に出るんだよ」 嘆願の頃からアリューゼは何かを胸に秘めていたのが分かっていた、だからシャッハも快く代わってくれたと話すと 頬を掻いてばつの悪そうな顔をするアリューゼ、それを後目に猟犬はゆりかごに放たれ、 アリューゼもまた自分のすべき事の為、先に進むのであった。 場所は変わり翌日の朝、此処はミッドチルダ北部聖王教会から更に北に位置する雪に覆われた巨大な山 此処は年中雪に覆われており、梺の村では大雪山と呼ばれている場所でもある。 その極寒の地の奥にある木々が大茂る森の中に、一カ所だけ切り取られたかのように草木が生えていない場所がある。 其処には青い線で描かれた魔法陣が刻まれており、その前に一人の女性が立っていた、メルティーナである。 メルティーナは無限書庫の情報によりこの場所を知り、なのは達を送った後此処へ赴いたのだ。 そしてメルティーナは徐に魔法陣に手を伸ばし触れると、無限書庫で得た詠唱を始める。 「…極寒の地にて眠りし冷厳なる魔狼よ…我が前に姿を現せ!!」 すると魔法陣が輝き出し、中央から巨大な狼が姿を現す。 メルティーナが呼び出した狼は、かつてこの地域で信仰されていた伝説の狼なのであるが 傲慢な態度と我が儘な行動で誰にも従わず好き勝手に暴れまわり、 結果的に人々から畏怖の念で見られ此処に封じられた存在なのである。 そんな狼の体は大きく氷のような青い体毛に覆われ、首下には金色の首輪が付けられており、 目は赤く輝き口から白い息が漏れ出す中で、狼はメルティーナに問い掛ける。 「俺を呼び出したのは貴様か?」 「そうよ、私の名はメルティーナ、率直に言うわ、アンタの力が欲しい!!」 メルティーナは狼に指を指して答えると、狼は大声を上げて笑うとメルティーナの申し出を断る。 狼曰く…俺は俺の為に生きており、誰かの…ましてや女に使役されるつもりは無いと、傲慢に満ちた表情で答える。 だがメルティーナも負けてはおらず徐に左手を狼に見せると其処には、金色の絹糸のような紐で出来た腕輪が付けられており、 その腕輪を見た狼の表情が一転する。 「貴様!何故それを…グレイプニルを手にしている!!」 メルティーナが身に付けている腕輪の名はグレイプニル、狼の首に付けられた金色の首輪と同じ材質で作られた封印の切っ掛けとなった代物である。 …かつてこの地を訪れた高僧が片腕と引き替えに取り付けた物で、この腕輪を身につけた者に逆らう事が出来ず それにより狼は封印され、腕輪はこの地に安置されていたのだが、管理局が腕輪をロストロギアと判断した為、場所を本局へと移し 永らく本局の保管庫内で埃を被っていたところを、無限書庫の情報によって知ったメルティーナがパクっ………借りたのである。 「これさえあればアンタは私に逆らえない!」 メルティーナは狼以上に傲慢な態度で挑むと歯噛みしながら睨み付ける狼。 しかしどれだけ悔しがってもメルティーナに逆らうことは出来ない 何故ならグレイプニルは狼の動き全てに作用し、封じられ果ては意志に背いた形で動きを操られしまうからである。 それを知っているからこそ、メルティーナはあの様な横柄な態度をとれるのである。 ……尤もメルティーナ自身の度胸も関係してはいるのではあるが…… 「ぬぅ……仕方あるまい…しかし!寝首をかかれる覚悟はあるのだろうな!!」 「ウルサいわね!アンタは私の飼い犬になっていればいいのよ!!」 狼の威圧もメルティーナは横暴な態度と言葉で一刀両断し 口を紡ぐ狼を見て更に見下すメルティーナであった。 場所は変わり此処はゆりかご内の施設、中ではナンバーズ達が最終決戦に備えて模擬戦を行っており、 その中には戦闘スーツで身を飾ったギンガの姿もあり、すっかり馴染んでいる様子であった。 「では各自励むように…以上!!」 トーレの掛け声を合図に解散するとチンクとトーレは最後の調整として話し合い始め ギンガはディエチと共に食堂へと赴こうとしていると、そこにノーヴェとウェンディが姿を現す。 「どうしたの?二人とも」 「二人に質問ッス!どうやったら二人みたいなコンビネーションが出来るんッスか!!」 今回の模擬戦の中でギンガはディエチと組み、ノーヴェはウェンディと組んで行った。 結果は一目瞭然でギンガの動きに合わせてディエチはウェンディの動きを牽制 ノーヴェは真っ向勝負をかけるが、ギンガの動きはフェイントで、実はウェンディを狙っており ノーヴェはすぐさま追おうとしたところをディエチに出鼻を挫かれ ウェンディは焦りながらエリアルショットにてギンガを迎撃しようとするが難なく回避 ライディングボードごとウェンディを叩き付け吹き飛ばし、一方でノーヴェはディエチの下へ向かおうとするが、 ディエチは既にイノーメスカノンからスコーピオンに持ち替え迎撃、ギンガ達の勝利で幕を閉じたのである。 二人の息の合った動きと更に言えばギンガの能力はノーヴェと酷似している為に、参考として聞きに来たのである。 すると二人の向上心に感心したギンガは快く応じ、その中で休みたいのに引っ張り出されるディエチであった。 その頃レザードの自室では席に座ったレザードがナンバーズ達とギンガの仕上がりを確認していた。 仕上がりは良好で、特にギンガの洗脳は今までゆりかごで暮らしていたかのように順応しており、 順応こそが最大の洗脳効果である事を証明していた。 一方で戦闘面での仕上がりも良好で並の魔導師や不死者では相手にならない程まで成長している…と践んでいると、 後方から助手であるクアットロが資料を持って話しかけてくる。 「博士!強化型の不死者の量産の目処が付きましたよぉ」 「それはよかった、では見せて貰いましょうか」 レザードはクアットロが手にした資料を受け取ると流し読みする。 資料にはドラゴントゥースウォーリアを始め、自爆を主としたウィル・オ・ウィスプ、後方支援に適したイビル・アイ、 三体の獣を合成したパラミネントキマイラ、高い回避率を持つグレーターデーモンなど 今までとは全く異なる強力な不死者の量産成功が綴られており、 流石のレザードも眼鏡に手を当て喜びの笑みを浮かべ、それを見ていたクアットロもまた笑みを浮かべていると レザードのデスクのモニターに目がいき、つい質問を投げかける。 「博士?これは?」 「ん…これですか?対エインフェリア用の強化プランですよ」 三賢人が造り出したエインフェリアは高性能で、多数の不死者で相手をしたとしても焼け石に水の状態は目に見えている、 その為、質に対し量で適わぬのなら質を上げるしかないという考えに至ったレザードは、 スカリエッティと共同でナンバーズのレリックウェポン化を決定したのだという。 かつてレリックウェポンに使われているレリックは危険なロストロギアであったのだが 二人のレリックウェポンやベリオンなどのデータにより、安定した魔力を供給することが出来る 安全な高エネルギー資源へと生まれ変わった為、今回の強化プランを実行出来たのだという。 レリックによる強化は身体強化が主なのであるのだが、 トーレはインパルスブレードの出力強化、チンクはヴァルキリー化の際の能力向上 セインはフィールドを用いた対消滅バリアを展開し、バリア・フィールドに覆われた場所もダイブする事が出来るようになり セッテはブーメランブレードをクロスに重ね手裏剣のような形で投げれるようになった事と、回転速度・精密度などの向上 オットーは更なる広域攻撃化と結界の強化、ノーヴェは失った右足の強化と 両足に加速用のエネルギー翼を展開する事でA.C.Sドライバークラスの突進力を実現させ ディエチは超遠距離の精密射撃の実現と弾頭の軌道操作能力 ウェンディはセインと同様の対消滅バリアをライディングボードに展開させる事が出来るようになり ディードはツインブレイズのエネルギー刃を伸ばすことが出来るようになり、四階建てのビルなら両断出来る程の能力などが加わるのだという。 「へぇ~それで博士私は?」 「……貴女は前線に出ないでしょう?」 クアットロは不死者及びガジェットの操作・制御を主にしている故に 強化プランは必要無いと肩を竦め答えるレザードに対し、心なしか残念そうな顔をするクアットロであった。 場所は変わりスカリエッティの研究施設では、ゆりかごの調整に勤しんでいた。 そんな施設の中で二つの似つかわしくない物が存在している、 一つは左手用で指先が鋭い金属で出来たグローブ型のデバイスと 刀身が艶のある黒に禍々しい印象を感じる飾りが付いた鍔と片手用に短くなった柄の片手剣である。 剣の名は魔剣グラム、かつて手に入れた妖精の瓶詰めを基に錬金術により変換した オリハルコンを材料に造られた剣型アームドデバイスである。 恐らくこの世界で、レザード以外にアーティファクトを元にしたとはいえ、オリハルコンを作成したのはスカリエッティだけであろう。 そしてもう一つは防と縛に特化したアームドデバイスで、此方は流石にオリハルコン製ではない。 その二つのデバイスを目にしたウーノはスカリエッティに質問を投げかける。 「ドクター?これは一体……」 「あぁ、私専用のデバイスだよ」 今回の戦闘は総力戦といっても過言ではない、自分が育てた“愛娘”達が負ける事はないと思うが 万が一乗り込められた場合を想定して造ったと語ると ウーノは胸に手を当て大声を上げてスカリエッティに訴えかける。 「大丈夫です!もし攻め込められたとしても、私が命を懸けて―――」 「いや…ウーノにはもっと重要な任務がある」 そう口にすると突然席を立ち、徐にウーノの唇に優しく手に掛け顔を近づけ、スカリエッティの突然の行動に顔を赤らめ目線を逸らそうとするが、 スカリエッティの澄んだ瞳を避ける事が出来ず、じっと見つめ続けているとスカリエッティは静かに甘い吐息混じりで言葉を口にする。 「……私の子を孕め」 ウーノは他のナンバーズ、特に初期の三人の中で体の作りは人に近く、子供を孕む様に出来ている。 それに…もし自分が消える事になった場合、自分が生きた“証”を残しておきたい。 その一つは“歴史”であり、もう一つは“遺伝子”である、 そして“証”の内の一つである“遺伝子”をウーノに受け取って欲しいと告げる。 ウーノはスカリエッティの言葉を一字一句聞きながらもその瞳は逸らさず 話を終える頃にはウーノの瞳は妖美に満ち、徐に上着を脱ぎ捨て、たわわに実った果実を晒し出すと スカリエッティに抱き付き、更に首に手を回して見つめ合うと、甘い吐息を吐くのように応えるウーノ。 「…私の体はドクターのモノです……」 その妖艶な笑みと口調にスカリエッティの理性が飛び、口付けを交わしながら実った果実に手を伸ばし 倒れ込むように押し倒して、二人の濃密な時間が流れ始まるのであった…… 場所は変わり翌日の夜、聖王教会の会議室に対策本部を設置したクロノはユーノを始め本局、 ゲンヤを始めとした地上本部と共に今後の対策を練っていた。 しかしその面子の中にカリムの姿はなかった、彼女は自室にて翻訳された予言を読み返していた。 予言の大半を読み返していると一つの文に目が行く、それは―― “神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く”である。 神々とは恐らく神の三賢人の事であろう…しかし死せる王とは一体誰のことを差すのであろう… 歪みの神はレザード、無限の欲望はスカリエッティというのは、既に明らかにされている。 今回の事件の張本人達が次々に明らかにされていく中で、死せる王が誰なのからない… 故に不安は未だ拭えず眠れぬ夜が続いているのであった。 翌日の昼、今日も朝から議論が交わされている中で一報が届く。 それは神の協力を得る為に向かったなのは達機動六課前線メンバーが、今し方帰ってきたというものである。 その一報を聞いた対策本部はざわめき始める、なのは達は神の協力を得られたのか?それとも敗北による撤退だったのか? いずれにしろ報告する為ここに顔を出すだろう…クロノがそう考えていると対策本部にノック音が響く。 クロノは返事をするとなのは達が部屋へと入り、その顔は今までとは異なる程自信に満ちていた。 その表情に淡い期待を胸に秘めながらクロノはなのは達に問い掛ける。 「先ずは無事に帰って来て何よりだ……それで神の協力を得られたのか?」 するとなのはとフェイトは互いに目を合わせ頷くと、腰に添えてある杖を見せる。 この杖は神の協力を得た証拠であると話すと、対策本部は一斉に沸き立ち 歓喜に満ちる中でユーノがなのはに抱きつきながら激励を込める。 「やったね!なのは!!」 「ちょ!?ハシャぎ過ぎだよユーノ」 そう言ってなのはは顔を赤らめ照れていると、その様を見たはやてが出発前の事を思い出す。 …そうだ!無事生還したらなのはと共にお祝いの赤飯を炊かねばならんかった… はやては歓喜に満ちた対策本部をこっそり抜け出して、食堂にある厨房へと赴く、 そして暫くすると対策本部には赤飯に鯛の尾頭付き、更にビフテキにカツカレーなどがズラリと運ばれて来た。 今回の祝杯と今後の栄喜を養う為に、はやて自らが腕を振るい更に監修して用意したようである。 対策本部は一時宴会場と変わり、飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。 翌日、場所は変わりスカリエッティの指揮の下、ゆりかごの最終チェックが行われていた。 ゆりかごは当初、激しく損傷していたのだが、長い時間をかけて修復を完了 そして動力炉に繋がれた聖王の遺伝子を所有したベリオンによる動力炉の起動確認も完了し、 更に余ったレリックを使う事で動力エネルギーを手にする事が出来た。 後はこの最終チェックを完了させればゆりかごを起動させる事が出来る、 すると其処にレザードとクアットロが姿を現す、レザードの方は既に準備が完了しており、 後はスカリエッティの演説と“ゆりかごの主”の合図を待つばかりであると。 その時である、いつもいる彼女がいない事に気が付いたレザードはスカリエッティに問い掛ける。 「おや?ウーノの姿が見当たりませんが?」 「あぁ、ウーノは船を下りたよ」 スカリエッティは最終チェックを行いながら淡々と答える。 ウーノには重要な任務を与えた、しかしそれは此処ゆりかご内で出来る事ではない為 彼女を船から降ろし任務に専念して貰ったのだと語る。 その為、ゆりかご内の防衛及びガジェット・不死者の官制はクアットロに全て任せると告げると ウーノの代わりとはいえ責任ある任を受け、笑みを浮かべ喜ぶクアットロを後目に、逆にスカリエッティが質問を投げ掛ける。 「ところで“聖王”の方はどうなんだい?」 すると眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべると話し始める。 “聖王”には“聖王”としての自覚を持たせ、更に王の印たる二つのレリックを取り付ける事により、 “聖王”として完成を迎え、今はゆりかご内に存在する王の間にてその時を待っていると。 …ただ、今の“聖王”はかつての姿とは異なり“貫禄”が身に付いていると語る。 「ほう…それはすばらしい、では早速行こうか」 レザードの会話の中で最終チェックを済ませたスカリエッティは席を立ち、 王の間へと向かうと、あとに続くレザードとクアットロであった。 そして夜…聖王教会の対策本部にはまだ灯りが灯っており、昼夜問わず議論が重ねていた。 その時である、議論を提示するモニターにノイズが走り映像が切り替わると、スカリエッティを映し出した。 この電波ジャックはミッドチルダ全土に及び、なのは達は待合室でその様子を観察していると 映像のスカリエッティは狂気に満ちた表情でゆっくり口を開き始める。 「ミッドチルダに住む諸君…久し振りだね、私を覚えているかい?」 …誰もが忘れる訳が無い、地上本部壊滅の一端を担い世界を破滅に導く存在を… そんなミッドチルダ全土の思いを後目にスカリエッティは話を続ける。 …いよいよ彼等は動き始める、今までの時間はミッドチルダを壊滅させる為の準備期間であったと。 「見たまえ!これが我々の戦力だ!!」 すると映像は引き絵に変わり、画面には夥しい数のガジェットと不死者が犇めいており、 ガジェットには新たな武装が追加され不死者も今までとは異なる凶悪さが垣間見てとれた。 スカリエッティ曰わくガジェット及び不死者はこれで全部なのではなく 至る場所に量産施設が存在し、其処から無数の軍勢として姿を現すと饒舌に語る。 「だが…コレだけではない、我々は遂にベルカの王を復活させたのだ!」 スカリエッティは両手を広げ宣言すると映像は王の間に切り替わり、 左右にはナンバーズ達が立ち並び、その列にギンガの姿も存在していた。 一方でギンガの姿を見かけたスバルとゲンヤは思わず目を見開き、 スバルに至っては両膝をつき、そのいたたまれない姿にティアナはそっと肩に手を置く。 しかしその光景を後目に映像は続き、奥の王の座が映し出されると其処には一人の女性が座っている。 その女性の年齢は17歳前後で服装は黒を基調としたバリアジャケットと騎士甲冑を合わせた造りの服に 髪をサイドポニーで纏め、その髪型は普段のなのはと酷似していた。 そして女性は目を開くと左右が紅玉と翡翠色をしたオッドアイで、その目を見たなのははヴィヴィオである事を確信した。 …いや確信せざるを終えなかった、あの瞳を見る前からそうではないかとなのはは感じており、 実際にそれが合っていた事に対し、流石のなのはも動揺を隠せずいると 映像のヴィヴィオが立ち上がり一つ間を置いて言葉を口にする。 「…私の名は聖王ヴィヴィオ、このゆりかごの主にしてベルカの王である」 ヴィヴィオの口から放たれるその言葉は威厳に満ちており、その佇まいは風格すら感じる。 そしてヴィヴィオは自分達の目的を話し始める。 「我々の目的はこのミッドチルダを土台に我々の世界…新たなベルカを創り出す事にある」 元々古代ベルカは此処ミッドチルダに侵略する為に来た、 故に本来の目的を知ったヴィヴィオはミッドチルダと言う“土台”の上にベルカを設立すると語る。 その言葉に苦虫を噛むような表情で映像を見るはやて。 「冗談やない!私等は肥やしやない!!」 はやては対策本部の机と強く叩き吐き捨てるように言葉を口にすると、それに呼応するように周りの人々が一斉に頷く。 一方で、はやては同じく演説を聞いていたカリムの顔を見る、するとはやての行動に気が付いたカリムははやての顔を見てにこやかに微笑む。 「安心してはやて、幾ら彼女が聖王だったとしても教会は協力を惜しみません」 …確かにかつてベルカはミッドチルダに侵攻した、しかし今は友好的な繋がりが出来ている、 それを捨ててまで聖王に…ましてやスカリエッティにつく事は有り得ないと断言するカリム。 しかしヴィヴィオの演説はまだ終わってはいなかった。 「この世界の住人に出来る事…それは速やかに死ぬ事、抵抗は無意味…死を受け入れなさい」 そうすれば苦しむ事なく生から脱却できると言葉にすると、 間髪入れずに老成の声が辺りに響き渡る。 「…いつからミッドチルダは貴様達のモノになったのだ?」 するとモニターが二分割され、其処にガノッサが映し出されるとクロノは歯噛みしながら睨み付ける。 ガノッサの周りにはエインフェリア達がずらりと並び立ち、ガノッサは杖で床をつつくと話し始める。 「ミッドチルダに住む諸君、いよいよ時は満ちた!貴様等が我々の礎となる為のな!!」 すると映像は海上を映し出し、ルーンを解除したヴァルハラがゆっくりと姿を現す、 …今までの潜伏は戦力を整える為のものであり、既にそれが揃った今だからこそ行動に移すと息巻いた様に語るガノッサ。 「見よ!これが我々の切り札である!!」 ガノッサは杖を高々に上げると映像が切り替わり、二つの月が映し出され、その間に何かが出現する。 其れは巨大な赤い水晶体のようなものに両端には竜の翼を象ったものがあり、 そして水晶体の中心からは管が何本の伸びており、ラッパのように先端が広がった砲口に繋がれていて、砲口には竜を象った飾りが付いていた。 人々がその存在に困惑する中で、クロノの端末に独自の諜報員からのデータが今し方送られてきており、 それに目を向けると驚愕し、思わず映像に目を向け声を荒らげた。 「奴らなんて物を!!!」 「さぁ終末を告げる笛の音よ!今こそ奏でてやろう!!」 ガノッサは高々と上げた杖を振り下ろしながら宣言するのであった。 …場所は変わり此処はミッドチルダ西部エルセア地方、人々はスカリエッティと三賢人の演説に聞き見入り 空は満天の星空で雲が一切無く星々が人々の頭上で力強く輝く頃、 一つの赤く輝く星の光が徐々に輝きを増し更に巨大化すらしていき、 それが映像に映し出されている攻撃であると気が付いた頃には辺り一帯を赤く染め上げ 攻撃が大地に突き刺さると一気に広がりを見せ、その光はエルセア地方全土を包み込み 赤い光が一筋の光となって消滅すると、エルセア地方は巨大なクレーターとなってミッドチルダの地図から消滅したであった… この一部始終はミッドチルダ全土に流れており映像には巨大な魔力砲を撃ち終えた砲口が映し出されている。 「これが我々の切り札、その名もドラゴンオーブである!!」 ドラゴンオーブ、二つの月の軌道上に設置された巨大魔導兵器で、 左右の二枚の翼で月の魔力を受け止め、中央の赤い水晶体によって増幅・圧縮、 そして砲口にて加速され撃ち放ちその威力は一目瞭然、常軌を逸していた。 そして今の今までその存在に気が付かなかったクロノは八つ当たりするように机に向かって拳を振り下ろす。 「情報が………遅すぎる!!!」 一方で現場や他の地域はアリの巣をつついたかのような大騒動に発展しており、 その情報は対策本部にまで伝わっており、ゲンヤの指揮の下、対応を取り始める中 映像には未だガノッサとヴィヴィオが相対するように映し出されていた。 「我々はこの力でミッドチルダを破壊し全ての憂いを晴らし神の道を行く!!」 「そうはさせない、この世界は我々の世界の礎として必要な物である、破壊などさせてたまるか!!」 互いは相対しながら睨み合い、宣戦布告すると両者の映像が消え、 その中でカリムは一人、予言の一文を思い返していた。 …神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く…と…… 前へ 目次へ 次へ